「バスルームから愛をこめて(C)山下久美子・・・・・の巻」
帰りのタクシーの中で、ちょっとしたいたずらを思いついた。
ホテルの少し前でタクシーを降りて、道路のキオスクでル・モンド（新聞）を買った。
キオスクのおじさんはフランス語が出来ないのに、なぜ買うの？という
顔をしていたが、いいのだ。
新聞をかかえて、ホテルの向かいのカフェへ入った。
入ったというよりは、道路にテラスがでているので、そこに座った。
私のホテルの前の通りはシャンゼリゼ通りに近いので、
日本人がかなり大量に通る。
「おっ、きたきた！」
2人組の日本人の女性が地図を片手にやってきた。
私は新聞を読むふりをして、コーヒーを飲んでいた。
こっちを見て、なにか、ひそひそ話しをしている。
「あの人、日本人じゃない？大使館の人？現地の駐在員かな？」
なんて話しているのかな。
残念でした、私も観光客でーす。
おもしろかった、さあ、ホテルに帰ろう。
部屋に戻ってしばらくすると、ノックする人がいた。
客室係りのおばちゃんだ。
早口のフランス語で何を言ってるのかわからない。
ニュアンスで「何か用事はないか？」と言ってるようだ。
「用事があれば、こっちから呼ぶから」という感じで、チップを渡して帰した。
しばらくするとまたノックする人がいた。
洗濯係りの黒人のおねえちゃんだ。
やっぱり「何か、用事はないか？」と言ってるようだ。
同じようにチップを渡して、帰ってもらった。
「何か、変だな」
そのときは、それくらいしか感じなかった。
あとで、日本に帰ってきてわかったことだが、10フランというチップの金額
は「破格」であったようだ。
折りしも、ジャパンマネーの嵐が吹き荒れていたころだ。
「さすが日本人、羽振りがいいぜ」くらいに思われていたのかもしれない。
さあ、風呂に入るか。
このバスタブがすごい。
何がすごいって、洗面器のおばけのような物に「足」がついている。
まるで、ビーナスが入るお風呂のようだ。
勘違いしないように今から言っておくが、すごいとは必ずしも、「すばらしい」
ということでは、ない。
さてどうするか、床がタイルではない、「木」だ。
濡れたまま出たら床がびちゃびちゃだ。
タオルを敷こう。
お湯をいれて、入浴剤をぶち込んだ。
この入浴剤がなんと「メンソール」
暖まってるはずなのに、体はスースー。
泡はすごいし、ひとりマリリン・モンロー状態。
まったく外人は、何を考えてるんだか・・・
おっと、お湯をこぼすと、床は木だ、やばい。
待てよ、すすげないじゃん。スースーのままかよ、いやはや、ひどいな。
やっとのことで風呂から出ると、ルームサービスをたのんだ。
改めて外へ食事へいく気がしなかったからだ。
たいしたものを食べた記憶は、ない。
ただ、家からもってきた、カリカリ梅、子袋入りをたべた。うまかった。
あした、掃除のおばちゃんは、梅の種をみて、こいつは何をたべたんだ、と
思うだろうな。
夜、用事があってフロントにいった。
フロントは夜勤専門のスタッフに代わっていた。
ひとりはイラン人、もうひとりは若い白人だった。
やはり仕事的につらいものや、いやなものは黒人やアラブ人などがやっている。
われわれ、単一民族には理解できない根深いものがあるのだろうな。
イラン人はフランス語と英語ができた。
彼と英語で話をしてると、「フランス語はできるのか？」と聞いてきた。
「ほんの少し」
と答えると、フランス語に切り換えて話はじめた。
「なかなか、茶目っ気があるじゃないか、アラブ人」
そう思った。
理解できたか？もちろんできなかった。
フロントで計算することになり、日本からもってきたカード型電卓をだした。
それは、太陽電池で動く、900円のやつだ。
するとアラブ人は「ルミエール！」といって驚いた。
白人は「オウ！カジーオ(CASIO)！テクノロジー！」と言っていた。
「そうだろ！日本はすごいだろ！」と、うれしくなった。
こんなもので喜んでくれるならと、気前よくあげてしまった。
かわりに、タバコをもらった。
部屋にもどったのは、けっこう遅い時間だった。
さて、あしたはどうする？
それは、あした考えるか。
寝よう。
パリ滞在2日目が終了した。
＊2015年 追記
ヨーロッパは硬水のため日本から持ち込んだシャンプー、ボディソープ
などが泡立たないことがあるようです。
備え付けのアメニティを使用することをお勧めします。