「巨大ショッピングモール・・・・の巻」
飛行機から出ても、空港から出ることはできない。
そこは「アメリカ」だからだ。
従って、我々は国際法上「外国」とされている部分しか移動できない。
具体的には「免税店」のみだ。
アンカレッジはアラスカ州の州都だが、乗り降りする客は、あまりいない。
だから空港の建物はこじんまりとしている。
しかし昔は、日本、中国、韓国からヨーロッパへ行く路線の燃料補給、
食事の補給などを担当しており、アジア-ヨーロッパ路線は必ずここを経由していた。
飛行機の性能が上がった今でも、航空会社の都合で度々経由する。
だから、乗り降りの客よりトランジット(一時滞在)のほうが何倍も多いのだ。
トランジット・エリアが免税店のわけだから、呼び込みもしないのに客がどん
どん押し寄せる形になる。
結果として、ちっぽけな空港に4階建ての免税店ということになる。
この免税店を目の前にして、何も買わないでいられるのは、よほど人間が
できているか、変人である。
酒、タバコ、バック、服、毛皮、人間の物欲を刺激する、ありとあらゆる物がある。
しかも、品物のほとんどが「高級品」だ。
高級品は値段に対する税金の割合が高い。ぜいたく品であるためだ。
したがって免税にしたときの定価との差が激しい。
「見て下さい、これだけ安くなっていますよ」
と、お客さんにアピールできるのだ。
ここで、そもそも免税とはどういうことか、経理学校出身の私が説明しよう。
たばこの値段には「たばこ消費税」という税金が入っている。
たばこを買った人が税金を払う「間接税」だ。
この税金は当然、日本(地方自治体)に入ることになる。
では、日本の旅行を終えて、これから自分の国に帰る人が空港でたばこを買ったら
どうなるか。
もう日本からいなくなるのに、日本に税金を払うのか。
おかしい話である。
だから「日本で吸わない」という条件で、日本に払う税金を免除してるのだ。
免税店が出国審査の後ろ(外国部分)にあるのは、このためである。
同じ考えで、到着ロビーには免税店はない。
これから日本に入るわけだから、日本の税金を免除するわけにはいかないのだ。
これが、免税品のしくみである。
話をもどそう
私は隣のおじさんにお土産にたばこを買うことにした。
当時たばこは一人10個(200本)まで免税だったのだが、これでは足りないと思い、
課税覚悟で20個買った。
どうせ課税されてもたいした額ではなかろう、と思ったからだ。
私はたばこを持ってレジにいった。
レジにはコンピューター連動の巨大なレジスターがあった。
その前には、日本人の店員がいた。たぶん日本人の客が多いからだろう。
店員は、忙しそうだった。
「あなたは?マルク?いいですよ!」
「あなたは?リラ?大丈夫です!足りないときは円を足してもいいですよ!」
ほとんどの通貨が使えるようだ。しかもチャンポンもOKとは・・・・すごい。
今のように通貨がユーロに統一される前は、ヨーロッパからの帰国便はいつも
このような状態になっていたのだろう。
私はフランで支払うことにした。
店員はたばこを袋に入れて封印をした。そしてインボイス(内容証明)のレシート
を添付し、「通関するまでぜったい袋をあけないでください」と言った。
たぶん、通関手続きの簡略化のためだろう。
たばこといっしょに「お釣り」をもらったが・・・・ドルだ。
たしかにアラスカはアメリカだが・・・・フランで払って・・・ドルでお釣り・・・
「よくわからんな」
たぶんレシートには今日のフランとドルのレートとか、細かいことが書いてある
のだろうが、しかたない、免税店を信じよう。
買い物を終え、通路を歩いていると、日本人から声をかけられた。
「アー・ユー・ア・ジャパニーズ?(あなたは日本人ですか)」
「何、ふざけてんだ、こいつ!」
そう思ったが、とりあえず「イエス」と答えた。
「アイ・アム・ア・コリアン(私は韓国人です)」と彼は言った。
そうだったのか、それはすまなかった。
彼は日本語で書いてあるパンフレットを指差し、「ジャパニーズ・オンリー?
(日本人だけ?)」と言っていた。
そこには「日本のみなさまだけの特別価格!全品20%OFF」と書いてあった。
当時はみんな「ジャパン・マネー」に群がっていた。
彼には悪かったが「イエス」と言って、別れた。
アナウンスがあった。
「お待たせ致しました。フランス航空・・・・・」
やっと、準備が終わったか。次に着陸するときは成田だ。
私はトランジット・カードを渡し、再び飛行機にもどった。
*2015年 追記
免税店で売っているすべての物が日本に持ち込めるとは限りません。
売っていたちょっとエッチな雑誌を買って税関で、
「これはちょっと持ち込めないので、破棄同意書にサインして下さい」
と言われると、並んでいる後ろの人の手前、恥ずかしい思いをしますよ。
ちなみに、破棄に不満がある場合は裁判所に提訴できますが、100%負けます。