死んだ親父の自慢の品、それはカルティエのライター。
香港に旅行に行った際、買った物だ。
当時の金額で10万円したそうだ。
今はそうではないが、当時香港には偽物がいっぱいあって、
日本人観光客がけっこうだまされていた。
親父には、だまされないという自信があった。
いっしょに旅行に行った友人に時計商がいたのだ。
彼は商売道具のルーペ持参で色々アドバイスしていたようだ。
親父は、
「みんな店先に並んでいる安物ばっか買うけどよ、いいもんは店の奥に隠してあるんだよ」
と言い、店主とのやり取りでいかに自分が賢く振る舞ったか自慢していた。
そんな親父が死んだ今、
「これって、本当はどれくらいの価値があるの?」
「高かったら、とっとと売ってうまいもんでも食うべ!」
と思った。
さいわい現代はインターネットというすごいツールがある。
さっそくググってみた。
あった、あった。
色も形も製造型番もピッタリ。
ギャランティーカードもあるし、まさしく本物。
しかし、親父の思惑と一つだけ違う所があった。
それは
「本物も金メッキ仕上げ」
だったこと。
笑った、笑った。
偽物だから金メッキ=これ、いつものパターンね。
本物だけど金メッキ=今、これ。
「これはなぁ、金ムクなんだぞ、持ってみろ、重いだろ」
親父はすべて金でできていると思っていたようだ。
当時の私も、
「重い、さすが金ムク」
と本気で思っていた。
しかし大人になった今、冷静に考えれば、たとえ純金ではなく18金でも
金の延べ板を加工してこのライターを作れば、材料費
だけでも10万円以上してしまう。
なぜ、この時は気がつかなかったのだろう。
それでも、「買い取り専門ザ・ゴールド」で恥ずかしい思いをしなくて済んだ。
あぶない、あぶない。