諸事全般、何事にも試行錯誤はつきもので、ギター製作も修理も、その連続で成り立っているわけですが、わけても塗装の工程はその塊と言ってもいいほどです。何度もやっているはずなのに、今回もそれを改めて感じます。
基本はいたって簡単、木地調整→目止め→ウッドシーラー→サンディングシーラー→クリア(トップコート)、これだけなのですが、単純にはいきません。以前、端材でいろいろ
テスト塗装をした時にも書いたのですが、考え得るバリエーションを全て試すことは不可能です。いや、それ以前に「全て」のバリエーションを考えることそのものが、どだい無理なのかもしれません。
例えば塗布の回数。よく「何回くらい塗るんですか?」と訊かれ、私も、ある程度決まった回数があるものと思っていましたし、トム・リベッキーにも、同じ質問をしました。ある程度の目安を言ってはくれましたが、回答の核心は「十分な塗膜ができるまで」でした。最初は「え~、そんなんじゃわからないよ」と、不親切とも思える答えに不満でしたが、経験を重ねると「単純に回数だけでは片づけられない事が多い」とわかり、不親切どころか、いかに適切な表現であるのかを実感します。
その「片づけられない事」の一つは、塗料原液とシンナーとの混合比、そしてそこから派生する粘度の問題です。私は基本的に5:5で混合していますが、3:7、4:6、6:4、7:3等もあり得ます。同じ塗膜の厚みを出すためには、粘度の高い混合液であれば回数は少なくて済みますが、粘度が低ければ回数を多くしないと厚みは出ません。回数を減らそうとして粘度の高い濃い混合液を吹き付けようとすれば、心地よく飛散しなかったりスプレーガンが詰まりやすくなったりします。かといって薄い混合液ではシャビシャビになって液垂れが生じかねません(*1)。
混合比を一定に保ったとしても、温度・湿度によっても粘度は変化しますし、材料による塗料ののり方の違い、目止めの状態による違い、或は「どんなペーパーを、どの時点で、どの番手で、どの程度挟むのか」によって変化する塗膜の削れ具合等々、変数があまりにも多いため、塗布の回数のみならず、塗装のあらゆる工程を一律に標準化することはできないのです(*2)。なので自ずと、基本の工程に則りながらも、常に試行錯誤の連続になってしまうのです。
タイトルの trials and tribulation というのは、trial and error を改めて辞書で確認した時に見つけた表現で、tribulationとは「深刻な問題」という意味です(全然知らなかった)。載っていた例文 After many trials and tribulations we reached our destination.(多くの試みと困難の後、ようやく目的地にたどり着いた)は、まさに塗装の工程を表現するために用意されていたような、的を射た表現だと感じ、タイトルに成句を拝借しました。
(*1)吹き付けに関しては「スプレーガンの選択と取扱いの技術」という別次元の要素が加わり、話が煩雑になるため、稿を改めたいと思います。
(*2)標準化を目指してはいますが、現時点ではできていない、ということです。
お問い合わせ ABE GUITARS