ここから書き込むのは、これで最後だ。
いつも食べ物を与えたり、撫でたりしていたハナタレねこともお別れになる。
お別れ会をしようと、なけなしの金をはたいて、ねこの喜びそうな缶詰やおやつを沢山買っていった。
いつも日が暮れれば、近所のスナックの階段下に蹲っているはずのねこは、今日に限って遅い時間になるまで現れなかった。
足を運ぶこと三度か四度、やっと会うことができた。
いまご馳走を持ってくるから待っていなさいと声をかけて、いそいでアパートから袋一杯の食べ物を持ってきた。
食べ物を持ってきたのが分かって、ハナタレはニヤニヤと鳴きだした。ハナタレの妹も一緒だった。
早速かつおのおやつを食べさせた。ハナタレは相変わらず食べ物を一匹占めする。
今日は手持ちが多いので、妹にもおやつを上げた。
二匹ともすごい勢いで食べる。
食べ終わるのを見計らって少し高級そうな缶詰を開けた。これも喜んでいる。
そんな調子でおやつ三つと缶詰5缶あたりを平らげたあたりで、二匹とも食べなくなった。満腹になったのだろう。
妹はもともと警戒心が強いので、食べ終えるとそそくさとどこかに行ってしまった。
一方ハナタレは、その場に蹲っている。
もう撫でまわしても良いだろう。
いつも近所の誰かに虐待されて生傷の絶えないハナタレにしてやれるのは、後は撫でるぐらいしかない。
撫で始めたらいつも通り裏返しになって完全に仰向きになった。
顎から胸、腹のあたりをさすってやると、喜んで前足を伸ばして、全体がどんどん弛緩していく。
しばらく撫でまわしているうちに、ハナタレは眠った。
時折ぴくりと動く前足や尻尾の先端を見るかぎり、レム睡眠に入るあたりなのか。
満腹になって撫でられて、安心して眠ったハナタレを前に、わたしも満足だった。
牛乳パックの下を切り取って作った皿にミネラルウォーターを入れて、少し経って目を覚ましたハナタレの鼻先に置いた。
周りを警戒しつつ、チベチベと水を舐める。
これが見納めだ。
水を飲んで横になったハナタレに、何度か別れの挨拶をして、アパートに戻った。
家に戻ると、一時間ほど経っていた。
ひとり椅子に座り、しばらく泣いた。
お別れ会をしようと、なけなしの金をはたいて、ねこの喜びそうな缶詰やおやつを沢山買っていった。
いつも日が暮れれば、近所のスナックの階段下に蹲っているはずのねこは、今日に限って遅い時間になるまで現れなかった。
足を運ぶこと三度か四度、やっと会うことができた。
いまご馳走を持ってくるから待っていなさいと声をかけて、いそいでアパートから袋一杯の食べ物を持ってきた。
食べ物を持ってきたのが分かって、ハナタレはニヤニヤと鳴きだした。ハナタレの妹も一緒だった。
早速かつおのおやつを食べさせた。ハナタレは相変わらず食べ物を一匹占めする。
今日は手持ちが多いので、妹にもおやつを上げた。
二匹ともすごい勢いで食べる。
食べ終わるのを見計らって少し高級そうな缶詰を開けた。これも喜んでいる。
そんな調子でおやつ三つと缶詰5缶あたりを平らげたあたりで、二匹とも食べなくなった。満腹になったのだろう。
妹はもともと警戒心が強いので、食べ終えるとそそくさとどこかに行ってしまった。
一方ハナタレは、その場に蹲っている。
もう撫でまわしても良いだろう。
いつも近所の誰かに虐待されて生傷の絶えないハナタレにしてやれるのは、後は撫でるぐらいしかない。
撫で始めたらいつも通り裏返しになって完全に仰向きになった。
顎から胸、腹のあたりをさすってやると、喜んで前足を伸ばして、全体がどんどん弛緩していく。
しばらく撫でまわしているうちに、ハナタレは眠った。
時折ぴくりと動く前足や尻尾の先端を見るかぎり、レム睡眠に入るあたりなのか。
満腹になって撫でられて、安心して眠ったハナタレを前に、わたしも満足だった。
牛乳パックの下を切り取って作った皿にミネラルウォーターを入れて、少し経って目を覚ましたハナタレの鼻先に置いた。
周りを警戒しつつ、チベチベと水を舐める。
これが見納めだ。
水を飲んで横になったハナタレに、何度か別れの挨拶をして、アパートに戻った。
家に戻ると、一時間ほど経っていた。
ひとり椅子に座り、しばらく泣いた。
今日、この住まいを離れる。
九年間過ごしたアパートだ。
根拠の無い希望と自信を持って九年前ここに来た。
今は尾羽打ち枯らして両親の元に身を寄せる。
彼らと過ごすのが、一年になるか二年になるか分からない。
時間がかかっても、自分としての生活をやり直したい。
やり直さなければならない。
逃げるのはもうやめだ。
翻訳は捨てる。
もうできない。
数百冊の本も処分した。
見れば色々な思い出のある品々も捨てた。
多くのものを捨てた。
これから何ができるだろう。
わたしは、神仏を崇拝しない。
かと言って完全な唯物論者でもない。
この九年で自分の中に育った闇が、何かを告げるのを待とう。
怯懦な闇であるならば、蝋燭を以って照らそう。
全てをゼロに戻す。
九年間過ごしたアパートだ。
根拠の無い希望と自信を持って九年前ここに来た。
今は尾羽打ち枯らして両親の元に身を寄せる。
彼らと過ごすのが、一年になるか二年になるか分からない。
時間がかかっても、自分としての生活をやり直したい。
やり直さなければならない。
逃げるのはもうやめだ。
翻訳は捨てる。
もうできない。
数百冊の本も処分した。
見れば色々な思い出のある品々も捨てた。
多くのものを捨てた。
これから何ができるだろう。
わたしは、神仏を崇拝しない。
かと言って完全な唯物論者でもない。
この九年で自分の中に育った闇が、何かを告げるのを待とう。
怯懦な闇であるならば、蝋燭を以って照らそう。
全てをゼロに戻す。
荷物を整理していたら、初めてミラノを訪れて、帰ってきた直後に受け取った手紙が出てきた。
読んでいて、ひとりでに涙がでた。
嫌だったことでさえ、取り戻せない遠い昔となってしまうと、生の一部を切除されたような心持になる。
人やモノとの関係は、自分の行為を起点にして初めて打ち立てられると、ボーヴォワールは言う。
そうすることで、異邦人は世界を呼び戻せるのだと。
わたしは、いつか、行為を遂行しよう。
読んでいて、ひとりでに涙がでた。
嫌だったことでさえ、取り戻せない遠い昔となってしまうと、生の一部を切除されたような心持になる。
人やモノとの関係は、自分の行為を起点にして初めて打ち立てられると、ボーヴォワールは言う。
そうすることで、異邦人は世界を呼び戻せるのだと。
わたしは、いつか、行為を遂行しよう。