子供の頃、家の脇の坂道を登ったところに、一軒のお弁当屋さんがあった。
母が忙しくて食事を作れないときなど、たまに利用するお店だった。
ある日店先に「タガマンランチ新発売」という紙が貼り出された。
いったいどんなお弁当なのか気になったわたしは、親にせがんで買ってもらった。
とてつもない大判のチキンカツがどーん、とご飯の上にのせられ、
スパゲッティもこれでもかと添えられていたような気がする。
ともかくボリュームのある商品で、昼に一つ食べると夕飯は
あまり入らなくなるようなお弁当だった。
母はえらくこのお弁当を気に入って、父が外出する際、
ときおり買ってきてもらうよう頼んでいた。
が、ある時母がふざけて「ガマンダランチ」と買い物リストに書いて父に渡したら、
お弁当を持って帰って来た父はなんだか渋い顔をしていた。
その次に、「タマランランチ」と書いてみると、
これまた父はイヤな顔をして帰って来た。
その次に頼んだ時は、父は「もうイヤだよ」と言って
とうとう買ってきてもらえなくなった。
父も店先のメニューを見ればいいのに、
多分メモに書いてある通りに注文したのだろう。
店員さんも大笑いだったに違いない。
母も容赦なく父をハメていた。今では懐かしい話だ。