今日は知事選挙がある。投票に行ってから眠るか、起きてから行くか迷った。そうするうちに受け付け開始の時刻が近づいたので、朝一で出かけることにした。
投票所になっている小学校の体育館へは早く着き、受付まで少し待った。周りを見ると、わたしの他には四五人しか来ていない。期日前投票だって出来るのだから、こんな時間に来るのも、物好きか変わり者なのだろうか。
投票を終え、校門わきの通用口から表に出ると、日差しがまぶしかった。道の右に沿って流れる、幅30センチ程度のどぶの向こうに、菜の花の小さな畑があった。快晴の空が、黄の花を強調していた。
ふと、叔父のことを思い出した。
叔父の暮らしている知的障害者向けの施設では、選挙が近づくと、みんなで字の書き方を練習すると聞いたことがある。練習するのは、とある選挙候補者の名前だ。投票所に行って、紙をもらい、練習した字を書いて箱に入れて帰ってくると、何かご褒美がもらえるとか、そんな話しだ。
わたしの叔父は重度の知的障害者で、字を書くどころか、話しもできない。話し掛けても、耳で聞いた言葉を、まわらない舌で不器用に繰り返すだけだ。字を書く練習も無ければ、ご褒美も無い。だから施設の職員か、他の入所者からいじめられるという、そんな話しを母から聞いたことがあった。
日曜の朝の静かな光景も、灰色の薄膜がかかって見えた。