金時人参と「兎の目」

 一年のうちで金時人参を食べるのは、お正月だけである。金時人参と聞いて決まって思い出すのは子供の頃に読んだ灰谷健次郎の「兎の目」で、黄色いカナリアに金時人参を食べさせると羽の色が赤く変わると信じている少年が、家に来た級友に、西洋人参ではだめで赤い金時人参でなければいけないのだと説明するのである。その級友も私も、人参には西洋人参と金時人参があるということをそのときはじめて知って、その印象が、いまもなお金時人参と「兎の目」を結び付けている。
 「兎の目」は、それまでに読んでいた本とは雰囲気が全然違っていたから、最初は面白く読んでいたのだけれど、結局、終わりのほうあと少しというところでなぜかやめてしまった。覚えているのは、上の金時人参の話と、動物園での写生会ではやく遊びたい少年が、マントヒヒだったかマンドリルだったかの背景を残った絵の具を適当に混ぜて塗りたくったところ、偶然檻の中の薄暗い雰囲気がうまく表されて賞を取る話と、あの耳の長いウサギを表す漢字が、「兎」という不思議な形をした字であることを知ったということだけである。
 そんなことを思い出しながら金時人参を切って、お雑煮の鍋の中に入れたら、濃い赤がぱっと広がって、思いのほかきれいであった。


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