市井の自転車レース

 学生の頃は、軽くてタイヤの細い自転車が好きで、シルバーのクロスバイクに乗っていたが、大学2年生の頃に盗られてしまって、それ以降はもっとタイヤの細い白いのに乗っていた。そういう自転車に乗ると、やっぱり速く走りたい。今から考えると、少々危なっかしいような乗り方もしていて、いつも道行くほとんどの自転車を抜かしていくのだけれど、ときどき、抜かれたほうが競争心をあおられて追いかけてくることがあった。たいてい、追いかけてくるのは、ママチャリとかではなくてやっぱり速い自転車に乗ったやつで、私が抜くと、すぐうしろで、ギアを切り替える音がガチャガチャと聞こえて、すごいスピードで抜き返してくる。こちらも負けるのは嫌なので、ペダルをこぐ足に力を入れて、何気なく抜く。何気なく、ということは大事で、お互い心のうちではかんかんに熱くなっているはずなのだけれど、それを表面化させてしまうと本当に競争になるから、表向きは平静を装って、普通に走ってるだけだけど、たまたま、抜きました、という顔をして抜く。
 あるとき、そんなふうに見ず知らずの人と抜き合っているところを、偶然買い物に出ていた母が目撃した。家に帰ったら、今日誰かとすごいスピードで走ってるところを見たけれど、あれは友達と競争していたの、と聞かれた。知らない人だといったら驚いていた。
 かっこいい自転車に乗って、並んでゆっくり走っているカップルがいたから、これは本当に普通に抜かしたら、急に男の方がギアチェンジして、ものすごく気張ったこぎ方で、猛スピードで抜かしていって、100メートルくらい走ったところで止まって満足げに振り返り、女の方が追いつくのを待った。女の子を置いてけぼりにしてまで抜き返してくるというのは可笑しかった。
 うしろの荷台に、何かがたごという荷物を積んでいたおじいさんを抜かして、そのあと赤信号で止まったら、おじいさんはやけにうしろのほうで停車している。なぜかしらと思っていたら、信号が青になる直前、背後からがたごと音が大きくなってきて、スタートダッシュをかけたおじいさんの自転車が私の横を抜かして行った。だけど、やっぱりかなりおじいさんだったから、50メートルくらい行ったところで、息を切らせて休んでいた。
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 もちろん今は、息子をうしろに乗せて、そんな走り方はしません。


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