息子とともにチェコ・フィル来日公演へ行ってきた。
会場は、震災で1年以上閉鎖されていたミューザ川崎シンフォニーホール。Obを趣味としている息子にとって、世界中のオケの中でも、このチェコ・フィルは別格に写っているのだろう。あの土臭い響きでドヴォルザークを生で聴いてみたいとよく話していたから、今日はいつもとテンションが違ってすでに興奮気味のようだった。アントンKには、このチェコ・フィル、過去に何度か実演に接する機会を持つことができたが、弦楽器群の分厚い音色と、明るく柔らかな木管楽器の音色が印象的ではあるが、中々好みの演奏に出会うことが出来ずにいたから、そういった意味でこの日も期待をもって会場に向かっていた。
ツアーの後半、翌日で終了というスケジュールだからか、アンコールは、ソリスト含めて4曲。なかなかの大盤振る舞いとなった。今日のプログラムを聴いてみてまず言えることは、このオケには、やはりチェコという独特の音色、色合いが培っているということ。それを、現在の常任指揮者でもある、イルジー・ビエロフラーヴェクが、実に手中に収めてうまくコントロールしていた演奏であった。指揮者自身の個性を埋没させて、どちらかというと、この伝統あるオケに演奏内容も任せているのかと思えるくらい自己主張は見られなかった。それは、テンポ感においても、曲の解釈においても、ごく一般的でオーソドックス、言いたくないが、無難な演奏内容だった。特に、お国もののドヴォルザークの「新世界より」においても、その傾向は顕著だった。もちろん、各楽章のポイントのツボは押さえていて、圧倒的に綺麗な響きを堪能できたのだが・・・
自国のものゆえに「守りの演奏」になったのか?いや、これでは、このアントンKが満足するはずがない。もっと言えば、王道から少しはみ出して欲しかったのだ。自国のものだから、我々に「本当はこうだ!」と教えて欲しかった。先ほども言ったように、弦楽器群は恐ろしくピッチが合い揃っていて素晴らしい音色。木管楽器群も、それぞれ主張し合い際立っていた。Hrnも音色が「これぞチェコ・フィル」と言わんばかりの音で聴衆に迫ってきていて素晴らしい。しかし、TpとTbがどうしたことか。あまりに聴こえない。自分の座席の位置の関係かと終始感じていたものの、やはりそれは指揮者の解釈そのものであるという結論に至った。クライマックスでの、息を飲む緊張感の中の「合いの手」はいったいどこに行ったのか。終結部の懐かしく雄大なTpのコラールはどうした!と言いたくなる。こんな上品で大人しい「新世界より」聴きに来たんではないのに・・・
初めてチェコ・フィルに接した息子も、およそ同意見ではあったものの、日本のオケにはない民族的な音色に大満足のご様子。これはこれで良かったと少し安心して家路についたのである。
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グリンカ 歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 op18
ドヴォルザーク 交響曲第9番 ホ短調 op95 「新世界より」
(アンコール)
ブラームス ハンガリー舞曲第5番
ドヴォルザーク スラブ舞曲第3番
「ふるさと」~日本童謡歌
イルジービエロフラーヴェク指揮
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(P) 河村尚子
~ミューザ川崎シンフォニーホール