本格的音楽活動が始まる、このタイミングで、新日本フィルのコンマス崔文洙氏が企画開催して下さった、特別な無伴奏リサイタル。数か月の間、真っ暗だった舞台に凛とした光が差し込むように、そのリサイタルは突然にやってきた。今月になり、いよいよ定期演奏会も再開とのニュースが入る中、今後へ向けての決意表明のごとく、コンマス崔氏が大きな舞台に一人で立ったのである。
演奏された楽曲は、バッハのソナタとパガニーニの変奏曲の2曲だったが、いつにも増して感動的な内容だったことをまずは記しておきたい。人間の喜怒哀楽の全てが音色となって発せられているような、厳しくも優しい音楽絵巻を堪能できたのだった。掲載写真のように、いつになく広大に見えるブラックアウトされた舞台で、スポット浴びて演奏する崔氏は、奏しながらこれまでの数か月の想いを音色に乗せているようで、アントンKは鑑賞しながら、この数か月の音楽のない非日常を顧みていた。音符一つ一つに気持ちを込めて、噛み締めるように奏したバッハでは、純粋無垢な響きの中に新たな希望があった。後半のパガニーニでは、その超絶技巧もさることながら、ご自身の音楽への愛、楽器への愛を我々に示して下さったのである。この大きなホール内の空間に、濃厚とも言うべき崔氏のヴァイオリンの音色が響き渡る。長い残響を伴いながらの演奏は、ここで聴くオーケストラのそれに匹敵すると言ったら大袈裟か。こういったリサイタルを今後も可能な限り行って頂き、シリーズ化したら楽しみが増えるというものだ。是非検討願えたら幸いだ。
いよいよ演奏活動が再開されるが、新しい日常へ向かってまだまだ問題も多いと聞く。我々に今できることは何なのか、といつも考えてしまうが、何も出来ない無力のアントンKには、今まで通り、演奏会場へと足を運ぶことしか出来ないのかもしれない。意識を以って新たな鑑賞スタイルを築き今後も楽しんでいけたらと思っている。
「新しい日常」へのプレリュード
崔 文洙 特別無伴奏リサイタル
バッハ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 BWV1001
パガニーニ 「うつろな心」による序奏と変奏曲 ト長調
アンコール
バッハ 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番 BWV1002~サラバンド
2020年7月3日 19:30 すみだトリフォニーホール
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