2019年8月16日公開 ドイツ 117分 G
ドイツ・ミュンヘン。幼い娘の誕生パーティに、招待されてもいないのに酒に酔って現れ、別れた妻から「正気?」と追い返されるカール(ゴロ・オイラー)。仕事も家族も生きる希望さえも失ったカールが、泥酔の底で「助けて」とつぶやいた翌日、ユウ(入月絢)という名の若い日本人女性が訪ねて来る。カールの亡き父ルディ(エルマー・ウェッパー)と親交があったというユウは、ルディが生前暮らしていた家を見たいというのだ。よく知らないユウと共に、郊外にある今は空き家となった実家へと向かう羽目になるカール。父の墓の前で手を合わせて涙を流しながら「彼は私に優しかった」と話すユウの言動は、すべてがとても風変りだった。実家に入ると、いい思い出も悪い記憶も次々と蘇り、カールは両親の幻影と共に数日間を過ごすことになる。ある晴れた日、ユウの希望で観光名所のノイシュバンシュタイン城へ出掛けたカールは、土産物売り場で働く義姉に出くわす。彼女から甥っ子で高校生のロベルトが引きこもりになったと聞いて驚くカール。兄のクラウス(フェリックス・アイトナー)が極右政党に入党したことが原因だった。心配のあまり兄の家に立ち寄ったカールは、帰宅した兄と大喧嘩になってしまう。兄クラウスと姉カロ(ビルギット・ミニヒマイアー)とカールの3兄弟は、子供の頃から仲が良くなかった。母親に溺愛されていた末っ子のカールに、兄と姉が嫉妬していたのだ。母に続いて父が亡くなった時には、相続で揉め、以来完全に疎遠になっていた。こうしてカールは次第に目を背けてきた自らの人生と向き合い始める。両親の期待に応えられなかった不甲斐なさ、親の死に目に逢えなかった後悔、家族との縁を切ってきた不義理、そして本当の自分をさらけ出すことが出来なかった過去のすべてー。ユウはそんなカールの耳元でそっとささやく「あなたは今のままでいいの。愛してる。」ずっと止まっていた時計が少しずつ動き始めたカールが、新たな人生へと一歩を踏み出そうとしたまさにその時、ユウが忽然と姿を消してしまう。ユウを捜しに遥か海を越え日本を訪れたカールは、彼女の故郷である神奈川県の茅ケ崎海岸へ向かう。ユウの面影を追ううちにカールがたどりついたのは、茅ケ崎館というひっそりとした旅館だった。そして茅ケ崎館の老いた女将(樹木希林)との思いがけない交流から、カールは哀しくも美しい知られざる人生の物語を知ることになるー。(公式HPより)
2018年9月に他界した樹木希林の海外製作初出演作品で遺作となったドイツ映画です。ドイツ出身のドーリス・デリエ監督による、孤独なドイツ人男性が、父親と親交のあった日本人女性と旅して人生を取り戻す姿を描いた作品ですが、哲学的でやや難解。
親や周囲の期待に応える理想の自分と本当の自分の間でもがき苦しんできたカールは、両親の死に心を引き裂かれ酒に逃避して更に人間関係が悪化していく負のループに陥っていました。そんな彼の不安や恐怖を形にしたものが黒い影(ユウは悪霊と呼びます)です。更に久しぶりに訪れた実家で両親の幻影を見るようになり、さらに罪悪感が増していきます。当然酒量も増え、遂には愛娘のミアとの面会もできなくなるのね
ノイシュバンシュタイン城で出会った日本人はユウを見て「あの子は悪霊だ、気を付けた方がいい」とカールに言います。(どんな爺さんなんだ?)ここで観ている方は彼女が生身の人間ではないかもと気付くことになります。突然押しかけてきて振り回している行動も、もう不思議とは思わなくなるという
ユウの「誘い」を受け入れることができなかったカールは、その夜ロベルトの幻影を見て彼が自殺するのではと心配して兄の家に押しかけ追い出されてしまいます。酒に酔い森で寝込んでしまった彼は凍傷になり病院で生死の境をさまよいます。意識のない彼に兄姉は生命維持装置を切る選択をしますが、奇跡的に一命をとりとめるんですね。「父だったら迷わず切るが母は許さないだろう」という二人の会話からも三兄弟の間のわだかまりが透けて見えるようです。
助かったものの、生殖器を喪ったカールは再び深く傷つき、ユウを求めて日本へやってきます。でもその前から彼の機能は停止していたんじゃないのかな?というか、そもそも自分の性に疑問持ってるようにも見えたんだけど。
彼女の故郷と聞いていた茅ケ崎で目にしたユウの姿を追って迷い込んだ宿の窓辺にノイシュバンシュタイン城のスノードーム(一緒にいた時ユウがねだっていた)を見つけたカールは、因縁を感じて女将にユウの写真を見せます。彼女は何か知っている様子でしたが何も言わず首を横に振ります。カールは女物の着物を羽織っていたので、女将は男女両方の浴衣を出してきます。カールが選んだのは女物の方。前合わせを左前に着た彼に、女将は右前に直してやりながら「生きているんだから幸せにならなければ駄目ね」と言います。
翌朝、祭りで出すおにぎり作りを一緒に手伝う彼に、女将はユウが既に亡くなっていることを打ち明けます。ユウは女将の孫で、母が入水自殺をしたことで精神を病い、母の命日に同様に海に身を投げたというのです。
祭りの翌日はちょうど二人の命日で、その夜、女将とカールはユウとユウの母の幻影を見ます。ユウが死んでいることを受け入れられず、必死に彼女の姿を探し、疲れて浜辺で眠り込んだカールが目覚めると、古びたピンクの受話器を見つけます。(カールの実家にあったコードは海中に続いていてその先にユウがいました。導かれるように海に入った彼をユウは連れて行こうとしますが、カールは抗い「もう少しこの世にいたいんだ」と言います。生き続けることを選んだ彼にユウは「人生を楽しんで、また会える日まで」と呟き海の中へ消えていきました。
女将がスノードームを見つめながら、「ゴンドラの唄」を口ずさむ姿、そしてエンドロールとなります。
この「命短し恋せよ乙女~」の歌詞、劇中何度も登場しますが意図はイマイチわからなかった
立ち直るきっかけになったのがユウという日本人女性、しかも亡霊というのもなんだかな~~彼女の孤独がルディを通してカールとシンクロしたってことかしらん?カールは過去と向き合うことで自分をあるがままに受け入れることができたのかな。