高田郁(著) 双葉文庫(底本)埼玉福祉会(発行)
ふるさとへの愛と、夢への思いの間で揺れ動く少女が主人公の表題作をはじめ、遠い遠い先にある幸福を信じ、苦難のなかで真の生き方を追い求める人びとの姿を、美しい列車の風景を織りこみながら描いた感動的な9編を収録。(本紹介より)
この作品を読むにあたって選択したのは「大活字本シリーズ」
最近文庫本の小さな文字が厳しくなってきています😢
開いてみてその文字の大きさに「え?絵本サイズか!」と驚きましたが、なるほど目に優しい大きさで、まさに視力弱者向け。
・お弁当ふたつ
夫が二か月も前に会社をリストラされていたことを知った妻。いつもと変わりなく朝家を出て夜9時過ぎに帰宅していた夫は本当はどこで何をしていたのか?妻は夫の後を尾けます。すると夫は外房線と内房線を乗り継ぎ、妻の手作りのお弁当を車内で食べて一日を過ごしていました。昔家族で出かけた海水浴場のある駅も通過します。初めは夫に怒りを抱いていた妻でしたが、夫の苦しい胸の内を察して涙します。翌日、妻は自分の分のお弁当も作って夫の後を追い、お弁当を食べようとしていた夫に声をかけます。何も言わず向かい合わせで座りお弁当を食べる二人・・この夫婦は大丈夫と思わせてくれます。
・車窓家族
大阪と神戸を結ぶ私鉄電車から見えるカーテンのない文化住宅の一室に住む老夫婦。互いを労わり合いながら暮らす二人の姿を、停車中の車窓から眺めて気にかけている人々がいました。二日続けて姿を見かけなくなったことに気付いた彼らは思わず声を上げ、自分以外にも二人を気にかけている人がいたことを知ります。互いに全く無関係の5人が老夫婦を思う気持ちで一時繋がります。
他人だけど束の間老夫婦を気遣う疑似家族のような気持ちを共有した5人です。
・ムシヤシナイ
大阪環状線のT駅のホームの立ち食い蕎麦屋で働く初老の男の元に、5年ぶりに突然現れた孫。学のない両親を恥じていた息子は、自分の子供にも小さい頃から勉強を強いて、それを諫めた男と疎遠になっていました。自分の能力以上の努力を求められ逃げ出してきた孫を男は黙って受け入れます。このままでは父を殺してしまうかもと怯える孫に包丁を持たせネギを刻ませる祖父。まな板にリズミカルに包丁の音が響くようになったころ、祖父は「お前はもう大丈夫。包丁は人を刺すもんやない、お前の手が覚えよった」と言います。孫は父親に正面から気持ちを伝える勇気を祖父に貰ったのね。
・ふるさと銀河線
北海道のローカル線北海道ちほく高原鉄道は「ふるさと銀河線」の愛称で親しまれています。過疎化が進む町で、早くに両親を亡くし運転士の兄と暮らす中3の妹・星子は自分の演劇の才能に自信が持てず、生まれ育った故郷への愛着もあって進路に悩んでいました。兄や彼の友人が星子の背中をそっと押します。進路に悩む受験生・・・そんな時代もあったね~~
北海道のローカル線北海道ちほく高原鉄道は「ふるさと銀河線」の愛称で親しまれています。過疎化が進む町で、早くに両親を亡くし運転士の兄と暮らす中3の妹・星子は自分の演劇の才能に自信が持てず、生まれ育った故郷への愛着もあって進路に悩んでいました。兄や彼の友人が星子の背中をそっと押します。進路に悩む受験生・・・そんな時代もあったね~~
・返信
妻と幼子を遺して急逝した息子の面影を偲び、彼が15年前に旅した地を訪ねる老夫婦。映画「幸福の黄色いハンカチ」のロケ地「陸別」は当時の面影を残しておらずがっかりする二人でしたが、夜空に輝く満天の星に息子の魂の行き着いた先を感じます。息子の妻に遠慮して自分の悲しみを表に出せずにいた妻に気付き共に前を向いて生きようと決意した夫。この夫婦もきっと大丈夫!
・雨を聴く午後
郊外から新宿駅へ向かう私鉄電車の線路脇にある古いアパート「共栄荘」の一室に、学生時代住んでいた男。証券マンとなりバブル崩壊で辛い毎日を送る彼は、偶然そのアパートの前を通りかかります。合鍵の存在を思い出した彼は懐かしさに駆られてドアを開けて部屋に入りますが、その部屋に暮らす女の慎ましい生活ぶりを知り、彼女が夫に向けて書いたであろう手紙を盗み読みして衝撃を受け自分を見つめ直します。完全に不法侵入だし、犯罪だし・・よくばれずに済んだものだと思うけど、立ち直るきっかけになったのね。
郊外から新宿駅へ向かう私鉄電車の線路脇にある古いアパート「共栄荘」の一室に、学生時代住んでいた男。証券マンとなりバブル崩壊で辛い毎日を送る彼は、偶然そのアパートの前を通りかかります。合鍵の存在を思い出した彼は懐かしさに駆られてドアを開けて部屋に入りますが、その部屋に暮らす女の慎ましい生活ぶりを知り、彼女が夫に向けて書いたであろう手紙を盗み読みして衝撃を受け自分を見つめ直します。完全に不法侵入だし、犯罪だし・・よくばれずに済んだものだと思うけど、立ち直るきっかけになったのね。
・あなたへの伝言
「共栄荘」でセキセイインコと暮らす女。ベランダに毎日干す白いソックスは
「共栄荘」でセキセイインコと暮らす女。ベランダに毎日干す白いソックスは
車窓越しに妻を気遣う夫へ向けたメッセージでした。彼女はアルコール依存症を克服するため、共依存状態だった夫と別居していました。お弁当屋さんで働きながら「断酒会」で知り合った女性を目標に頑張っていましたが、その女性がふとしたきっかけでまた酒に溺れたことを知り、目標を失って絶望的な気持ちになります。その時インコが「ダイジョーブ」と語り掛け、その言葉で女は「明日は飲んでしまうかもしれないが今日は決して飲まない、そんな今日を積み重ねていつか(夫との)人生を取り戻したい」と強く思います。
依存症の怖さはほんの一瞬の気の緩みや甘えが更に深い闇を呼ぶことですが、それでも彼女にエールを送りたくなりました。
・晩夏光
痴呆になった姑を看取り、夫にも先立たれた女性の楽しみは庭いじり。訪ねてきた息子のことを翌日思い出せなかった彼女は、医師がアルツハイマーと診断したことを知ってしまいます。かつての姑の姿と記憶を失くしていく自身を重ね合わせた彼女は、夫が残したノートに日々の記録や願い(施設に入れて欲しい)を書き留めていきます。やがて年月が過ぎ、施設に入った母を見舞う息子を彼女はもう認識することができません。母の隣でノートを読み涙する息子に彼女は少し前まで何か忘れてしまったけれどとてもこわいものがあった。でも今は違ってこの陽射しのような柔らかでまろみのある気持ちだと話します。
これは切ない!でも親の子に対する愛情が痛いほどに伝わってきます。
・幸福が遠すぎたら
ある日届いたポストカプセル郵便に導かれ、学生時代の同級生3人が京都・京福電鉄の嵐山駅で再会します。実家の酒造を継いだものの経営が傾き不渡りを出した桜、震災で妻子を亡くした梅、肝臓癌とC型肝炎のキャリアがわかり妻に去られた桃。それぞれの明暗を噛みしめながらそれでも前を向いて歩こうと決意する姿が描かれます。人生色々あるけど、まだまだこれから、何度だって立ち上がることができるんだと思いたいですね。
ある日届いたポストカプセル郵便に導かれ、学生時代の同級生3人が京都・京福電鉄の嵐山駅で再会します。実家の酒造を継いだものの経営が傾き不渡りを出した桜、震災で妻子を亡くした梅、肝臓癌とC型肝炎のキャリアがわかり妻に去られた桃。それぞれの明暗を噛みしめながらそれでも前を向いて歩こうと決意する姿が描かれます。人生色々あるけど、まだまだこれから、何度だって立ち上がることができるんだと思いたいですね。
井伏鱒二が「勧酒」という漢詩を訳した言葉「さよならだけが人生だ」と寺山修司の詩「サヨナラだけが人生ならば、また来る春は何だろう」が引用されています。