杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ふるさと銀河線 軌道春秋 上下巻

2022年09月30日 | 
高田郁(著) 双葉文庫(底本)埼玉福祉会(発行)

ふるさとへの愛と、夢への思いの間で揺れ動く少女が主人公の表題作をはじめ、遠い遠い先にある幸福を信じ、苦難のなかで真の生き方を追い求める人びとの姿を、美しい列車の風景を織りこみながら描いた感動的な9編を収録。(本紹介より)

この作品を読むにあたって選択したのは「大活字本シリーズ」
最近文庫本の小さな文字が厳しくなってきています😢 
開いてみてその文字の大きさに「え?絵本サイズか!」と驚きましたが、なるほど目に優しい大きさで、まさに視力弱者向け。

・お弁当ふたつ
夫が二か月も前に会社をリストラされていたことを知った妻。いつもと変わりなく朝家を出て夜9時過ぎに帰宅していた夫は本当はどこで何をしていたのか?妻は夫の後を尾けます。すると夫は外房線と内房線を乗り継ぎ、妻の手作りのお弁当を車内で食べて一日を過ごしていました。昔家族で出かけた海水浴場のある駅も通過します。初めは夫に怒りを抱いていた妻でしたが、夫の苦しい胸の内を察して涙します。翌日、妻は自分の分のお弁当も作って夫の後を追い、お弁当を食べようとしていた夫に声をかけます。何も言わず向かい合わせで座りお弁当を食べる二人・・この夫婦は大丈夫と思わせてくれます。

・車窓家族
大阪と神戸を結ぶ私鉄電車から見えるカーテンのない文化住宅の一室に住む老夫婦。互いを労わり合いながら暮らす二人の姿を、停車中の車窓から眺めて気にかけている人々がいました。二日続けて姿を見かけなくなったことに気付いた彼らは思わず声を上げ、自分以外にも二人を気にかけている人がいたことを知ります。互いに全く無関係の5人が老夫婦を思う気持ちで一時繋がります。
他人だけど束の間老夫婦を気遣う疑似家族のような気持ちを共有した5人です。

・ムシヤシナイ
大阪環状線のT駅のホームの立ち食い蕎麦屋で働く初老の男の元に、5年ぶりに突然現れた孫。学のない両親を恥じていた息子は、自分の子供にも小さい頃から勉強を強いて、それを諫めた男と疎遠になっていました。自分の能力以上の努力を求められ逃げ出してきた孫を男は黙って受け入れます。このままでは父を殺してしまうかもと怯える孫に包丁を持たせネギを刻ませる祖父。まな板にリズミカルに包丁の音が響くようになったころ、祖父は「お前はもう大丈夫。包丁は人を刺すもんやない、お前の手が覚えよった」と言います。孫は父親に正面から気持ちを伝える勇気を祖父に貰ったのね。

・ふるさと銀河線
北海道のローカル線北海道ちほく高原鉄道は「ふるさと銀河線」の愛称で親しまれています。過疎化が進む町で、早くに両親を亡くし運転士の兄と暮らす中3の妹・星子は自分の演劇の才能に自信が持てず、生まれ育った故郷への愛着もあって進路に悩んでいました。兄や彼の友人が星子の背中をそっと押します。進路に悩む受験生・・・そんな時代もあったね~~

・返信
妻と幼子を遺して急逝した息子の面影を偲び、彼が15年前に旅した地を訪ねる老夫婦。映画「幸福の黄色いハンカチ」のロケ地「陸別」は当時の面影を残しておらずがっかりする二人でしたが、夜空に輝く満天の星に息子の魂の行き着いた先を感じます。息子の妻に遠慮して自分の悲しみを表に出せずにいた妻に気付き共に前を向いて生きようと決意した夫。この夫婦もきっと大丈夫!

・雨を聴く午後
郊外から新宿駅へ向かう私鉄電車の線路脇にある古いアパート「共栄荘」の一室に、学生時代住んでいた男。証券マンとなりバブル崩壊で辛い毎日を送る彼は、偶然そのアパートの前を通りかかります。合鍵の存在を思い出した彼は懐かしさに駆られてドアを開けて部屋に入りますが、その部屋に暮らす女の慎ましい生活ぶりを知り、彼女が夫に向けて書いたであろう手紙を盗み読みして衝撃を受け自分を見つめ直します。完全に不法侵入だし、犯罪だし・・よくばれずに済んだものだと思うけど、立ち直るきっかけになったのね。

・あなたへの伝言
「共栄荘」でセキセイインコと暮らす女。ベランダに毎日干す白いソックスは
車窓越しに妻を気遣う夫へ向けたメッセージでした。彼女はアルコール依存症を克服するため、共依存状態だった夫と別居していました。お弁当屋さんで働きながら「断酒会」で知り合った女性を目標に頑張っていましたが、その女性がふとしたきっかけでまた酒に溺れたことを知り、目標を失って絶望的な気持ちになります。その時インコが「ダイジョーブ」と語り掛け、その言葉で女は「明日は飲んでしまうかもしれないが今日は決して飲まない、そんな今日を積み重ねていつか(夫との)人生を取り戻したい」と強く思います。
依存症の怖さはほんの一瞬の気の緩みや甘えが更に深い闇を呼ぶことですが、それでも彼女にエールを送りたくなりました。

・晩夏光
痴呆になった姑を看取り、夫にも先立たれた女性の楽しみは庭いじり。訪ねてきた息子のことを翌日思い出せなかった彼女は、医師がアルツハイマーと診断したことを知ってしまいます。かつての姑の姿と記憶を失くしていく自身を重ね合わせた彼女は、夫が残したノートに日々の記録や願い(施設に入れて欲しい)を書き留めていきます。やがて年月が過ぎ、施設に入った母を見舞う息子を彼女はもう認識することができません。母の隣でノートを読み涙する息子に彼女は少し前まで何か忘れてしまったけれどとてもこわいものがあった。でも今は違ってこの陽射しのような柔らかでまろみのある気持ちだと話します。
これは切ない!でも親の子に対する愛情が痛いほどに伝わってきます。

・幸福が遠すぎたら
ある日届いたポストカプセル郵便に導かれ、学生時代の同級生3人が京都・京福電鉄の嵐山駅で再会します。実家の酒造を継いだものの経営が傾き不渡りを出した桜、震災で妻子を亡くした梅、肝臓癌とC型肝炎のキャリアがわかり妻に去られた桃。それぞれの明暗を噛みしめながらそれでも前を向いて歩こうと決意する姿が描かれます。人生色々あるけど、まだまだこれから、何度だって立ち上がることができるんだと思いたいですね。

井伏鱒二が「勧酒」という漢詩を訳した言葉「さよならだけが人生だ」と寺山修司の詩「サヨナラだけが人生ならば、また来る春は何だろう」が引用されています。
 


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ダウントン・アビー 新たなる時代へ

2022年09月30日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2022年9月30日公開 イギリス=アメリカ 125分 G

1928年、英国北東部ダウントン。広大な領地を治めるグランサム伯爵ロバート(ヒュー・ボネヴィル)らは喜びの日を迎えていた。亡き三女シビルの夫トム(アレン・リーチ)が、バイオレットの従姉妹モード・バグショー(イメルダ・スタウントン)の娘ルーシー(タペンス・ミドルトン).と結婚したのだ。華やかな宴とは裏腹に、屋敷は傷みが目立ち、長女メアリー(ミシェル・ドッカリー)が莫大な修繕費の工面に悩んでいたところへ、映画会社から新作を屋敷で撮影したいというオファーが。謝礼は高額だ。父の反対を押し切ってメアリーは撮影を許可し、使用人たちは胸をときめかせる。
 一方、ロバートは母バイオレット(マギー・スミス)が、モンミライユ侯爵から南仏にある別荘を贈られたという知らせに驚く。その寛大すぎる申し出に疑問を持ち、妻コーラ(エリザベス・マクガヴァン)、次女イーディス(ローラ・カーマイケル)、ヘクサム卿(ハリー・ハッデン=パトン)夫妻、トム夫妻、引退した老執事カーソン(ジム・カーター)、侍女バクスター(カーラ・シオボルド)とリヴィエラへと向かう。果たして海辺の別荘に隠された秘密は、一族の存続を揺るがすことになるのか―!? (公式HPより)


20世紀初頭のイギリスの大邸宅に暮らす貴族一家と使用人たちの生活を描く『ダウントン・アビー』シリーズの劇場版第2作目は、ダウントンで映画撮影が行われる中、先代伯爵夫人の予期せぬ相続話を巡って騒動が巻き起こります。
前作で予感させたトムとルーシーの恋は無事成就して皆に祝福されて華燭の典を挙げます。(とはいえ慎ましいものでしたが)クローリー家の子供たちも成長していますが、出番は殆どなかったかな。

映画製作のために屋敷を貸して欲しいという申し出をあっさり断った伯爵でしたが、屋根裏の雨漏りという現実を見せられてメアリーに判断を任せることに。やってきた撮影陣に屋敷はごった返し、仕切りを任されたメアリーは大忙し。もちろん使用人たちも銀幕のスターを目の前に浮足立ちます。ところが主演女優のマーナは美しさは文句なしでしたが、その粗野で横柄な言動に伯爵たちは眉を顰めます。反対に相手役のガイの方は紳士然と振る舞っていますがトーマスに好意を抱いているようです。

時を同じくして起こったバイオレットに寄贈された南仏の別荘話の真意を確かめる名目もあり、騒がしくなる屋敷を離れる伯爵一行。メアリーは屋敷にいてはトラブルになりそうなカーソンを付けて送り出します。

映画はダウントンと南仏をいったりきたりで進んでいきます。
映画の撮影は順調に見えましたが、時はサイレントからトーキーに変わろうとしていました。収益が見込めないと判断され撮影が中止に追い込まれそうになりますが、メアリーの一言で声をあてるトーキーに変更して続行となります。ところが、訛りが酷いマーラは演技以前の問題で、打開策としてメアリーがマーラの声をあてることに😄 これにつむじを曲げたマーラの説得にはアンナとデイジーが駆り出されます。デイジーの「あなたは貴族じゃない、庶民なんだから、ありのままで勝負すればいい」との叱咤が効いてふっきれたマーラです。トーキーに変更する際、セリフが重要な要素となりますが、モールズリーさんが大活躍することになります。撮影当初から屋敷をウロウロしていて映り込んでしまうなどの失態をしていた彼ですが、脚本家としての思わぬ才能が開花します。映画完成の後、監督からは脚本家としての契約をもう押し込まれたモールズリーさんは自信をもってバクスターさんに求婚します。(この場面が録音マイクを通じて皆に丸聞こえというのも彼らしいエピソードでした)

一方、南仏でモンミライユ侯爵の手厚いもてなしを受ける一行は、書斎に遺されていたバイオレットの若い頃の肖像画と裏に書かれた「愛する人」の文字を見つけます。さらに侯爵から「あなたは私の兄かもしれない」と言われたロバートは激しく動揺します。コーラはそれを否定しますが、母が不貞を働いたかもという疑念が彼を苦しめます。母の体調不良に気付いたイーディスの勧めで、彼女は夫に病気のことを告白します。結局悪性貧血で死に至る病ではないと後に判明しますが、ロバートは衰弱している母だけでなく最愛の妻まで失うかもしれないと更に不安になるんですね。いくつになっても男って、こういう面では弱いですね。侯爵の母はこの遺言に不満を持っています。彼女の結婚生活は決して幸福なものではなかったようです。夫が他の女性に心を奪われたままというのでは妻は心穏やかにはなれませんよね。(^^; 息子である侯爵は母の味方をするのではなく、父の願いを叶える事の方が大事と考えているようで、むしろ異母兄(かもしれない)の存在が嬉しい様子。

映画の撮影は無事終了し、トーマスはガイの付き人(生涯の伴侶という意味でも)になる選択をします。これまで捻くれたり散々迷惑もかけてきた彼だけど、その性的嗜好故に傷ついたことも多々あったことを知っているので、今度こそ幸せになってねと祝福したい気持ちになりました。

そして、バイオレットの秘密の真相も明かされます。毒舌家で頭の回転も速く、時代の荒波を雄々しく乗り越えてきた彼女は、まさに誇り高い生き方をしてきた女性でもありました。出生の正しさが証明され、ロバートはホッと胸を撫でおろします。自らの死期が近いことを悟っていたバイオレットは、イザベルに後始末を頼んでいました。長年の喧嘩友だちだけど、実は誰よりも信頼していた友だったのね。一族に見守られ、それぞれに感謝の言葉を述べて逝ったバイオレット。思わず涙ぐんでしまいました。まさに一時代の象徴であり、その終わりでもありました。ガラス張りの霊柩車の葬列といい、何だか先ごろ亡くなられた女王と重なるといっては不敬でしょうか。

今作ではメアリーの夫は終始不在でしたが、何か俳優側の理由があったのかしら?
その代わりと言っては何ですが、メアリーと監督のジャックの間に微妙な空気が流れます。メアリーはジャックに亡きマシューの面影を見て心揺れますが、ダウントンの女主人としての誇りが彼女を支えてもいるのね。

ダウントンの人びとは希望を胸に新時代への扉を叩きます。
まさしく一時代が終わり、新たな時代が幕を開ける、そんな瞬間に立ち会ったかのような感慨を覚えました。

上述以外の主要キャストは以下の通り
(使用人)
・ヒューズ(フィリス・ローガン) 家政婦長
・ベイツ(ブレンダン・コイル) 従者
・アンナ(ジョアン・フロガット) 侍女、ベイツの妻
・トーマス(ロブ・ジェームス=コリアー) 執事
・パットモア(レスリー・ニコル) 料理長
・デイジー(ソフィー・マックシェラ) 料理長助手
・アンディ(マイケル・フォックス) 下僕、デイジーの夫
・モールズリー(ケヴィン・ドイル) 元下僕、映画好き

(貴族)
・イザベル(ペネロープ・ウィルトン) メアリーの亡き夫マシューの母
・マートン卿(ダグラス・ライス) イザベルの夫

(映画関係者)
・ジャック(ヒュー・ダンシー) 映画監督
・マーナ(ローラ・ハドック) ハリウッド女優
・ガイ(ドミニク・ウェスト) マーナの相手役のハリウッド俳優

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