杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

アキラとあきら

2022年09月14日 | 

池井戸潤(著) 徳間文庫

零細工場の息子・山崎瑛(あきら)と大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬(かいどうあきら)。生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まった――。

 

映画が公開されて観に行こうと思いましたが予定が合わず、では原作を読んでみようと思い立ちました WOWOWプライム「連続ドラマW アキラとあきら」では向井理 と斎藤工が、映画版では横浜流星と竹内涼真が演じているようですね

初めに描かれるのは山崎瑛の子供時代。伊豆半島の山肌に建つ父・孝造の経営する工場は、瑛が小学5年の時に倒産します。銀行員や債権者の振る舞いへの悔しさ・恐怖の記憶は彼が大人になっても消えることはありません。そしてこの時二人の「あきら」はほんの一瞬すれ違っているんですね。

一家は磐田市内の繊維問屋をしている母の実家に身を寄せ、父は電機部品メーカーに再就職します。自己破産した一家の生活は楽ではありませんでしたが、瑛は地元の中学・高校に通い、親友もできます。高3になった瑛は家計を考えて就職しようとしますが、その時期父にアドバイスをした銀行員のお陰で進学を許され、東大の経営学部に進みます。

「あの日」すれ違ったもう一人の彬は海運業を営む東海郵船の経営者一族に生まれ、何不自由なく育ちました。父で長男の階堂一磨が「東海郵船」、次男の晋が「東海商会」、三男の崇が「東海観光」の社長を務めています。しかし、祖父が亡くなると叔父たちは父への反発心から遺産相続で揉めて父を悩ませます。その姿を見ていた彬は稼業に縛られることを嫌うようになります。都内の進学校から東大に入った彼はゴルフ部の主将を務め、就職先もあえて商船会社を避けます。

東大OBの産業中央銀行の採用担当者は、ゼミの恩師からの情報で二人に目をとめ、採用します。

3週間の新人研修の最後に行われた融資戦略研修で、ファイナルに残った瑛と彬のチームは、銀行側と会社側に分かれて熱戦を繰り広げます。会社側が作成した巧妙な粉飾書類を見事見破った銀行側。融資部長の羽根田一雄をうならせたこの決戦は後々までの語り草になります。瑛は八重洲通り支店、彬は本店に配属されます。共に出世コースなんですね。

瑛が担当する町工場の井口ファクトリーが、大手取引先の倒産を受けて不渡りを出します。冷徹な上司は、すぐに融資金の回収に乗り出し他行の預金も押さえようとします。その預金が難病を患う娘の手術費だと知っていた瑛は融資を続けるよう懇願しますが相手にされず担当を外されます。自分の子供の頃の辛い記憶が蘇った瑛は、銀行員としては背信行為と知りつつ井口社長に他行に預けていた預金を急いで下ろすよう助言します。お陰で井口の娘は心臓移植を受けることができて生き延び、後に井口の妻から感謝の手紙が瑛に届きます。

本社で順調に出世コースを歩んでいた彬でしたが、父が脳梗塞で倒れ、その後癌が見つかります。弟の龍馬がゆくゆくは社長の座に就く予定でしたが、経験不足を危惧した父は、中継ぎを指名して亡くなります。ところが、一族の争いから目を背けて跡継ぎの座を退き銀行員となった兄への不満と、未熟さ・プライドの高さを利用した叔父たちは、龍馬を社長に担ぎ上げるよう根回しをし、言いくるめて東海郵船に叔父たちが始めたリゾートホテル維持資金のための連帯保証をさせます。

バブル期に乗じて開発されたリゾートホテルは、叔父たちの期待を裏切り赤字を垂れ流していました。バブル崩壊と共に、海運業界の運賃相場も崩れ下落しており、連帯保証の重みも加わって、龍馬は極度の疲労から総合失調症となり入院します。弟本人と役員たちに懇願され、彬は銀行をを辞め東海郵船の社長を引き受けます。会社が行ってきた粉飾や杜撰な経理処理の見直しを図り、組織のシステムを見直した彬は、取引先の信頼回復とコスト削減にとりかかります。龍馬が連帯保証人の件をメインバンクである産業中央銀行に話していなかったと知り銀行に謝罪に出向いた彬を出迎えたのは、営業本部次長となった瑛でした。二人は東海三社の再建のために協力して知恵を絞ることになります。

赤字を垂れ流し続けるロイヤルマリン下田を何とかしなければならない。そのために晋叔父の東海商会とセットで瑛が買収先をあたる中で出会ったのは投資ファンドに勤める中学からの親友ガシャポンでした。彼の助けを借りて成功するかに見えた計画はしかし、叔父たちと三友銀行(ライバル銀行で、金貸しという意味で敵役ですね)の邪魔が入って決裂します。このままでは同族三社共倒れになる危機を迎え、彬は弟や叔父たちと腹を割って救済策を話し合います。彼らの嫉妬心やライバル心もここに至って敗北を認めることで、和解の道が開けたわけです。

瑛は、三友銀行からの融資を全額返済するために産業中央銀行から140億円の融資を取り付けようと考えます。しかしそのような無謀な融資を営業本部長の不動が認可するはずがありません。

この難しい稟議書を、瑛は緻密な分析と創意工夫に富んだ資料と共に提出します。ホテルを売却するのではなく黒字にするためにまずは金利の高い三友銀行からの融資を返済することが必要であること。それによりホテルの赤字が軽減され、余剰人員のリストラと経営戦略の一新で収益が上がること、ホテルを切り離した東海商会が他業種の傘下に入ることで東海商会や東海観光にもプラスに働くことなどが詳細な資料と共に添付されていました。

なぜそこまで肩入れするのかという不動部長の問いに、瑛は自分が銀行員になった理由を告白します。会社ではなく人間に金を貸したいという瑛が不動の気持ちを動かし、140億円の融資が実行されました。

5年後。黒字に転じたロイヤルマリン下田に遊びに来てくれと彬から誘われた瑛は家族を連れて出かけます。(恋愛要素はほぼなかったので突然妻子持ちになってるのにちょっと驚きました。)途中で実家の工場があった場所に寄り道をすると、工場も家も既にありませんが、ミカン畑の急斜面と光を浴びて輝く海は昔のままでした。

正反対の人生を歩んできたふたりの「あきら」。銀行員として突き進む山崎瑛と、社長の宿命から逃れられなかった階堂彬の運命の糸が時に交わりながら、共に成長していく姿にエールを送りたくなりました。


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