2021年4月2日公開 アイルランド=イギリス 97分
シングルマザーのサンドラ(クレア・ダン)は、虐待をする夫のもとから2人の幼い娘と共に逃げ出したが、公営住宅には長い順番待ち、ホテルでの仮住まいの生活から抜け出せない。ある日、娘の寝る前のベッドサイドストーリーからヒントを得て、手頃な家を自分で建てようというアイデアを思いつく。土地、資金、人材……足りないものだらけで途方に暮れていたサンドラだったが、土地と資金の提供を申し出てくれた雇い主のペギー(ハリエット・ウォルター)、偶然出会った建設業者のエイド(コンリース・ヒル)、仕事仲間やその友人たち。少しずつ仲間を増やし、一軒の小さな家を作っていく。しかし、束縛の強い元夫の妨害にあい…。サンドラは自分の人生を再建することができるのだろうか?(公式HPより)
アイルランド・ダブリンを舞台に、住居を失った若い母親と子どもたちが、周囲の人々と助け合いながら自分たちの手で小さな家を建てる姿を描いたヒューマンドラマです。
エマとモリーの母であるサンドラ)は、ごく普通の平凡な女性でした。しかし彼女は夫ガリーの暴力にずっと苦しめられていました。ある日とうとう限界がきて、警察に助けを求めます。「ブラック・ウィドウ」はエマと決めていた助けを求める合言葉なんですね
夫から離れることはできましたが、ホテルに仮住まいで公営住宅に入ろうにも長い順番待ちで、見通しが立ちません。娘たちを学校送迎し、仕事を掛け持ちしながら働く生活にサンドラは疲れていきます。
仕事の一つは医者のペギーの家のヘルパーです。ペギーは気難しい面もありますが、サンドラの仕事に対する姿勢には好感を持っていました。
もう一つの仕事は飲食店で、同僚のエイミーとは愚痴や娘たちの面倒も頼める仲です。学校ではローザというママ友も出来ました。
元夫には面会権があるため、週末毎に娘たちをガリーの所(彼の実家)に連れて行かねばならないのですが、暴力を受けた辛い記憶が蘇りサンドラを苦しめていました。
ある夜、エマが話してくれたお話がヒントになり、サンドラは自分で家を建てることを思いつきます。ネットで調べると35000ポンドあれば可能と知り、セルフビルドの設計図(検索すれば何でも出て来るのね)を探してプリントアウトし出役所に足を運びますが、まさに木で鼻を括る対応で相手にしてくれません。
落ち込むサンドラに声をかけたのはペギーでした。彼女は裏庭の空き地を使えば良いし資金は貸すと言ってくれたのです。元々サンドラの母がヘルパーをしていて長年懇意にしていたことや、サンドラ自身の境遇を慮り、その働きぶりも評価していたのね。
建築業者のエイド(コンリース・ヒル)の協力を得ることができて、サンドラの夢の家計画がスタートします。働き手が足りず、エイミーやローザに声をかけると、エイミーは仲間を連れて来てくれました。順調に家づくりが進む中、ガリーが親権を主張して裁判を起こします。モリーが週末の面会を嫌がりエマだけが行くことが続いていました。裁判ではサンドラの不注意でエマが怪我をしたことや家を建てていることも不利な事実として取り上げられ窮地に立たされます。感情的になるサンドラにペギーは事実をしっかり伝えるよう助言します。サンドラがガリーのDVとその様子をモリーが目撃して傷ついていることを主張したことで親権は奪われずに済みました。ガリーは娘たちには暴力を振るっていませんでしたが、父親の狂暴な姿は幼い心に衝撃と恐怖の爪痕を遺していたのですね。
家の完成を間近に控えた夜、ペギーの家に集まったサンドラと仲間たちはパーティーを開き、エイドから聞いたメハル(アイルランドの言葉で助け合いの意味)の精神を称えて大いに盛り上がります。ところが、そこにエマが飛び込んできてあの合言葉を叫びました。サンドラがカーテンを開けると窓の外には完成目前の家が炎に包まれていました。
ガリーが放火したのです。夢の家が灰となり、ショックのあまり寝込んだサンドラの前にガリーの母親がやってきて、息子は逮捕され刑期も長いだろうからもう安心だと言います。彼女自身も夫からDVを受け続けていて、それを見て育った息子は妻は殴るものだと刷り込まれたのだろうと言ってサンドラに申し訳なかったと詫びた母親は、自分は逃げることは諦めてしまったが、あなたは自由になったのだと言いました。思い返せば、面会時のガリーの父親の態度(これ以上恥を曝すなとか喧嘩するなら家の中でやれとか)は息子と通じるものがありましたっけね
ガリーから自由になったけれど、家は燃えてしまいました。絶望を抱えるサンドラをペギーは裏庭に連れ出します。そこにはエマとモリーが焼け跡の灰を片付けながら燃え残った釘をより分けている姿がありました。それを見てやり直すことを決意したサンドラは、娘たちの元へ駆け寄るのでした。
家庭内暴力やシングルマザーの置かれる状況(貧困や住宅問題)などの社会問題を描きながらも、協力してくれる仲間の存在が希望となって強く生きる主人公を支えていることが温かく胸に沁み込んできました。