人間は幼児の段階から1、2、3、4……と数をかぞえている。抽象化された数の概念がどのように獲得されるのかよくわからないが、他の動物はどうであろうか?
今福道夫氏(京都大学名誉教授:動物行動学)著の『おとなのための動物学入門』(昭和堂 2018年出版)に、これに関するおもろしい話がいくつか述べられているので紹介する。
ハーバード大学のマーク・ハウザーはアカゲザルにリンゴの切り身を選択させる実験で、サルが4個までは数の多い方を選択することを明らかにした。ただ4と5個、5と6個の区別はできなかった。1、2、3、4たくさん.....という感じである。一方、ハトは50ぐらの数をかぞえることが、スキナーボックスを用いた実験で明らかになった。鳥はあまり頭が良くないとされているが、そうでもなさそうである。
さらに動物に計算できるかどうかの実験が、やはりアカゲザルをもちいて行われた。物を並べて提示し、スクリーンで隠し陰で適当に一個を取り除のぞく。その後、スクリーンをあげてサルの表情を観察する方法により、彼らが1+1=2の計算をしていると結論された。ただ、これは足し算計算をしているのではなく、単に空間配列の予想能によるものかもしれない。またエリザベス・プラノンたちが行った研究で、図形の形によらず数の大小を認識しているらしいことが明らかになった。すなわち少なくともサルは数の概念を持っているようである。
アカゲザルのように群れで暮らす動物はおたがの個体識別とともに数概念を進化させたものであろうが、系統的に動物のどの段階までこれがあるのか興味あるところだ。たとえば魚類についてはどうだろうか?さらに社会性昆虫のミツバチはどの程度まで数をかぞえているのだろうか?いろいろ研究してみる価値はありそうだ。
追記 (2020/08/17)
正高信男 『ヒトはいかにしてヒトになったか』岩波書店 2006
本書に動物の計数能についてのおもしろ観察と実験が紹介されている。
ライオンが群れ同士戦うときは、おたがいに頭数をかぞえあって、相手が多いと、その場から撤退するそうである。ただこの場合も人のように1,2,3....という抽象数の計測ではなく、●、●●、●●●...といった視覚イメージの比較を行っている可能性がある。
ネズミの迷路実験で、3回連続で操作して成功すればエサをそのたびにやる。そして4回目はエサをやらないようにする。そうすると3回連続後の走行テストでは、迷路を走るスピードがダウンする。これは数をかぞえる予測行動ではないかと思われる。