京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

特殊相対性理論のニュートン力学的解釈

2020年01月08日 | 時間学

<特殊相対性理論のニュートン力学的解釈>

 世界で最も有名な科学方程式はアインシュタインのE=mc^2(エネルギー=質量 X 光速の2乗)であろう。これは特殊相対性理論から導き出されたもので、エネルギーと質量が等価で相互に互換性があり、エネルギーが質量に変換されるのと同様に質量もまたエネルギーに変換されることを示している。この方程式により人類は「原子の火」を手に入れ、まず原爆が、ついで原子力エネルギーが生み出された。 特殊相対性理論によると、光速はいかなる慣性系でも不変である(光速不変の法則)。さらに物の速度が光速に近づくと、静止系から観察したばあい次第にその質量が増加し時間が遅れ空間が縮むといわれている。いずれも特殊な数学的手続きと論理に従って出される帰結である。ここでは、相対性理論ではなく古典的なニューートン力学でもエネルギー・質量変換が予測可能であることを示したい。

 

 

 (アインシュタインの相対性理論論文)

 

特殊相対性理論では4次元空間(ミンコフスキー空間)での物質の(4元)運動量Pと速度(Vx, Vy, Vz, Vt)との関係は以下のように表される。

Px=γmVx=m’Vx

Py=γmVy=m’Vy

Pz=γmVz=m’Vz

Pt=γmC=m’C

m’=γm

 Cは光速、mは静止質量、γはローレンツ因子1/√{1-(V/C)^2}である。これらの式によると速度vが大きくなって、光速に近づくと質量m’や運動量Pが無限大に近づいてしまう。

速度vで動く慣性系の時間(T)と静止系の時間(t)の関係はT=√(1-(V/C)^2) x tと表せる(運動系では静止系に対して時間の進み方が遅くなる)。√(1-(V/C)^2) はローレンツ因子γの逆数である。また、それぞれの長さについては、L=√(1-(V/C)^2) x lの関係(ローレンツ収縮)がある。これらの式は、”光速不変の原理”(光速は誰から見ても一定)と”相対性原理”(どんな慣性系でも物理法則は同じ)という二つの原理(前提命題)から導かれる。

さらに最後のPtの式の両辺に光速cを掛けると

cPt=m’C^2=γmC^2=1/(√{1-(V/C)^2)}) mC^2

これをテーラ展開すると、この式はV/Cが小さいときには近似的に

cPt=mC^2+1/2mV^2

この最初の第一項は静止質量エネルギーで、おなじみのアインシュタインの方程式E = mC^2である。そして第二項は不思議なことにニュートンの運動エネルギーが表されている(注1)。

 

さていよいよここからが本題である。

F=dp/dt=d(mv)/dt=m(dv/dt)=mα

 この式はニュートン力学の第二法則で高校の物理の教科書にも出てくる。Fは物体(粒子)を加速させるための力、pは運動量、mは質量、αは加速度。無論この式だけではエネルギー・質量変換は出てこない。そこで『質量を持った物質の速度は光速を超えることはできない』と仮定をする(この命題は特殊相対性理論の光速不変の原理とは違う事に注意)。そうすると粒子の速度が光速Cに近づくにつれて、同じ量の力Fを加えても加速度αの (dv/dt)は次第に小さくなり0に近づくと考えられる。いくら力を加えても物が動きにくくなるということは、質量mが増加し重くなったと考えることができる。不思議の国のアリスのように、いくら走っても同じ場所にいつづけるというエピソードのような状況だ。力が加えられて得た物質のエネルギーが質量に転換したと考えればよい。光速に近づくとαは無限に0に近づくが、質量はそれに応じて無限に大きくならなければならない。しかし、一つの粒子の質量が無限に大きくなる事はありえないので数学的に以下のように考える。

mも変化すると考えると最初の第二法則は次の式で表さなければならない。

F=dp/dt=(dm/dt)v+m(dv/dt)

速度vの小さなときはdm/dt ≒ 0でもとの第二法則と同じになる。速度が光速cに近いとdv/dt ≒ 0によりF ≒(dm/dt)cとなる。

さらに時間tと力を加えて加速させた後の時間t'での運動エネルギーはそれぞれ

Et=1/2mtvt^2

Et'=1/2mt'vt’^2

ここで光速近くではVtとVt'はほとんど変わらないので、これをともにC’とすると

Et' -E= 1/2(mt’-mt)C’^2

ΔE = 1/2ΔMC’^2

mt’-m= 2ΔE/C’^2>0

最後の式の右辺は常に0より大ということは、mt’がmtに比べて増加したということになる。

 かくして、第二法則に「光速上限の原理」の仮定をつけ加えることによりエネルギーの質量変換ΔMが予想されるようになる。ニュートン力学では運動する物体の速度が変わりこそすれ、その質量が変化するなどという”非常識”なことは考えないことにしていた。特殊相対性理論では「光速不変の原理」が非常識原理として登場したが、ここでは「光速上限」がそれである。
ちなみにアインシュタインの特殊相対性理論では、運動量保存則を光速Cで成り立たせるために、速度が大きくなるほど粒子の質量も増えるという「相対論的運度量」が前提となっている。
 
ニュートン力学では光速Cで動く(動けたらという仮定)質量M0の物体の運動エネルギーは、上記の理屈により
 
E =1/2 (M0+ ΔM)C^2 (M0は静止質量、 ΔMは運動により物体が増加した分の質量)
 
ここでもしΔM = M0ならば E =M0C^2となりアインシュタインの方程式と同じになる。
 
それを確かめるために相対論的運動エネルギーを計算する。特殊相対性理論では相対論的運動エネルギーは
 
E'=γM0C^2 -M0C^2 = (M0 + ΔM)C^2 - M0C^2 = ΔMC^2          ( γはローレンツ因子1/√{1-(V/C)^2)
 
ここでE = E'とすれば、
1/2 (M0+ ΔM)C^2  = ΔMC^2
これより ΔM =M0 
 
 すなわち光速では質量が静止質量分M0だけ増加し、全部で2倍になる。どのようなメカニズムでそのような事が起こるのかはわからない。光速Cは質量を持たない電磁波や重力波にしか許されない「特権」で、質量をもった粒子が光速を得るためにはエネルギーに”変身”しなければならない。そのため原子核の内部の素粒子の構成や相互作用が変化するのが原因かもしれない(一つの仮説としては質量が同じ反粒子の生成が考えられる)。
 
 粒子加速器などで「光速上限」の現象を発見しておれば、相対性理論なしにエネルギー・質量変換の法則は発見されたはずであるが、巨大な加速器が必要で昔は不可能であった。今では、兵庫県佐用町で理研が運営する放射光施設SPring-8が電子を光速の99.9999998 %まで加速できるそうである。加速器中で粒子の質量が増加する現象が観察されたのは相対性理論が出てからだいぶ後のことで、感動もなく予想される当然の事とされてしまった(注2)。
 
注1)空間と時間をひとまとめにして4次元時空を考えたのはアインシュタインではなく、ヘルマン・ミンコフスキーである。アインシュタインは最初ミンコフスキーの考えを単なる数学的な置き換えとして気に入らなかったそうだが、後に一般相対性理論を作るに当たって、4次元時空の概念が重要であることを悟ったと言われている。

注2)光速度不変の原理は連星から発せらえる光の観測やCERN(ヨローッパ合同素粒子原子核機構研究所)での加速器実験から証明されている。この加速器実験において、ほぼ(?)光速で飛ぶ素粒子から発射された光の速度は光速の結果が得られている。これは光速上限の原理を証明したと言って良いのかも知れない。

 

 {参考図書}

山田克哉 『E=mC2のからくり』:エネルギーと質量はなぜ「等しい」のか。 講談社 ブルーバックス2048, 2019

竹内淳 『高校生でもわかる相対性理論』ブルーバックスB-1803, 講談社、2013

 

追記(2020/04/19)

ジル・アルプティアン 『疑惑の科学者たち-盗用・捏造・不正の歴史』(吉田春美訳) 原書房  2018

この書によると、相対性理論を最初に考えついたのはアインシュタインではなくアンリー・ポアンカレであったとする。ポアンカレは1900年に論文「ロレンツの理論およびその作用・反作用の原理」でE=mC2の公式を発表していた。アインシュタインは1905年に「物理学年報」に「空間と時間の新しい理論による運動物体の電気力学」を発表したが、ポアンカレの先行論文を引用しなかった。アインシュタインは後年になってそれを読んでいなかったと抗弁した。これはフェアーではないと、フランスの作家ジュール・ルヴーグルが追求した。ただ、問題はその物理的な意味付けと解釈ではアインシュタインの方が勝っていたことは確かだ。『ポアンカレ予想』の著者ドナルド・オシアも科学史研究家ピーター・ガリソンの著を援用し、それぞれ特殊相対論が形成された背景(ポアンカレは経度局、アインシュタインは特許局に勤めていた)を分析している。

 

 

 


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