京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

絶望的状況を生き延びた人々の記録:抵抗 La résistanceー風は自ら望むところに吹く

2024年10月03日 | 絶望的状況を意志の力で生きのびた人々の記録
 
1956年フランス映画:ロベール・ブレッソン(Robert Bresson、1901- 1999)監督、脚本。1957年カンヌ国際映画祭監督賞受賞作品。
 

 
 
 1943年リヨン。第二次大戦中、実際にフランスであったレジスタンス闘士の脱獄劇をドキュメント風に描いている。映画は白黒画で観るべしと思わしめる佳作の一つである。
 
 素人を俳優にしてモノログで淡々と話が展開してゆく。独房の壁越しに主人公が隣の囚人とモールス信号で連絡することや、窓越しに下の中庭の仲間を観察する光景はアーサー・ケストラー著「真昼の暗黒」 (1944年)に出てくる挿話でもある。私服の男と大男の軍人が囚人の尋問や連行に登場する場面も同じ。全体主義の特務機関は同じシステムのようだ。この映画ではクローズアップを多用し、短いカットをつなぎあわせることで死と隣り合わせの緊張感を描く。巨匠ブレッソンの「シネマトグラフ」を代表する作品である。 
 
 ただ不自然なシーンもいくつかある。ろくに食い物も与えられず栄養失調でヘロヘロの主人公が、素手でドイツ軍の歩哨を殺して脱走する。この場面では主人公が画面から消えさった通路の壁を映すだけで映像は出て来ない。スタローンのランボーでもあるまいし、これはいくらなんでも無理だろう。それと、独房の下の広場にいる別の囚人と、窓越しに結わえた袋で物を交換する場面。厳しい監視のもとで、とてもありえない話だ。
 
 脱出に成功した主人公と同房の少年の二人は鉄道の線路沿いに、悠々と歩み去るが、あんな格好ですぐに捕まらなかったのは、仲間のレジスタンスと連絡がついていたのだろうか?主人公が何度もつぶやくように「運がついていた」ということであろうが、ともかく大事なことは、殺される前に逃げよ!ということ。逃げても失敗するかもしれないが、逃げなければ100%殺される。どの人も人生では一度はそれに類した切所はある。
 
 追記:ケストラーの「真昼の暗黒」は「ブハーリン裁判」をモデルにした政治小説である。庵主はむかしこの作者の「サンバガエルの謎」という科学ドキュメントを読んだことがある。ケストラーは「権力は必ず腐敗する」という原理をテーゼにしていた(石破茂が総理になった途端に「石破」でなくなったように)。彼はヒトラーやスターリンの全体主義を憎悪するとともに、ブルジョワ民主主義の堕落をも透視し、庶民や一般大衆を美化するのを止めていた。
 
 

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