バンタム級初の世界4大タイトル統一を成し遂げた井上尚弥選手が、WBC・WBO世界スーパーバンタム級王者スティーブン・フルトンへ挑戦することが決まりました。タイトルマッチは5月7日、横浜アリーナで行われます。
ここまでの井上尚弥選手の強さを見てきた人は、スーパーバンタムも同様に征服してしまうだろうと期待している人が多いと思います。しかし、自分は、昨年12月21日の当blogでも申し上げたとおり、それほど甘くはないと考えています。
バンタム級から約2㎏プラスのスーパーバンタム級、さらに約2㎏プラスのフェザー級という階級は、世界中のプロボクサーの選手層が最もぶ厚いクラスだからであります。同じ三階級制覇でも、選手層が薄いミニマム級(アジア系と一部の中米系しか選手がいないクラス)からフライ級までと、バンタム級からフェザー級までの三階級制覇では全く価値が異なるのです。
少し古いお話をしますが、ご容赦下さい。
1970年代に軽量級の黄金時代と言われた時期があって、その時の世界の軽量級王者には、歴史的に名を遺す名チャンピオン達が、数多くひしめいておりました。WBAジュニアフライ級には13回防衛の具志堅用高、WBCフライ級には14回防衛のミゲール・カント、WBCバンタム級にはキング・サラテと呼ばれた9回防衛のカルロス・サラテ、WBCスーパーバンタム級には同じくキング・ゴメスと呼ばれた17回防衛のフィルフレド・ゴメス、WBCフェザー級にはKOキングで9回防衛のサルバドル・サンチェス。
この時、バンタム級の無敵の王者であり、メキシコの英雄カルロス・サラテがプロ無敗のまま、1階級上のフィルフレド・ゴメスのスーパーバンタム級タイトルに挑戦したのです。対戦前はサラテの勝利を信じるファンが多かったようですが、結果は5R KO負けというゴメスの一方的な試合になりました。そして、そのあと、そのゴメスが同じくプロ無敗のまま、1階級上のサンチェスのフェザー級タイトルに挑戦したら、今度はゴメスが8R KO負けという結果になってしまいました。
自分の階級では全くの敵なしの歴史的チャンピオンが、約2㎏だけ上のタイトルに挑戦したら、ボロボロに倒されるという事態が続いたのです。このように、スーパーバンタム級やフェザー級というクラスは世界的に選手層が厚いため、井上尚弥選手と言えども簡単な圧勝劇を期待するのは危険であります。
ちなみに、井上尚弥選手の相手となるWBC・WBOスーパーバンタム級王者のフルトンは無敗の王者であり、あのカルロス・サラテにとってのフィルフレド・ゴメスと全く同じ状況。安易な楽観を持つには、非常に危険な相手なのです。特に、井上選手の直近のバンタム級での戦い方は、パワーで優る井上選手が相手をパワーと圧力で圧倒して勝つ試合を続けています。この延長線上で、体格とパワーに勝るフルトンへ立ち向かうのは、大変危険な戦い方になるのです。(続く)