久しぶりに「映画」を取り上げます。
先日「WOWOW」で『PERFECT DAYS』が放送され、遅ればせながらジックリ鑑賞することが出来ましたので、ここでご紹介したいと。
『PERFECT DAYS』は、ドイツのヴィム・ヴェンダース監督による日独合作作品であり、第76回カンヌ国際映画祭で主演の役所広司さんが男優賞を受賞。第47回日本アカデミー賞でも、最優秀監督賞と最優秀主演男優賞を受賞。
<作品内容>
主人公は、公共トイレの清掃員である中年男性。
この男性が、朝起床してから日々のルーティンを経て仕事場へ向かい、そしてキッチリと仕事をこなしながら、仕事場で出会う様々な人間と真摯な姿勢で接する様子が丹念に描かれる。夕方になって仕事が終わると、その足で銭湯に向かったあと、浅草駅地下にある大衆酒場で一杯だけ晩酌、そしてアパートに帰って寝床で文庫本を読みながら就寝する。
基本的には、この毎日の様子が繰り返し繰り返し描かれる。ネタバレにはなるが、大きな事件は発生しない。でも、日々の営みの中で、ちょっとした変化は起きる。たまの贅沢として通う小料理屋での晩酌の様子、お店の女将との会話。あるいは、家出をして自分のアパートに転がり込んできた姪っ子とのやりとり、そして久しぶりに再会した妹との会話。その端々に、主人公がこれまで生きてきた半生が薄っすらと浮かび上がってくる。
終始映画で流れる音楽は、60年代フォークや70年代ポップス・ロックで、懐かしく、かつ心地良い響きを醸し出す。全て音源は、主人公が所有しているカセットテープ。
ラストシーンは、この音楽を車内で聴きながら、アパートへ帰るために運転する主人公の表情。変化のない自分の仕事を、今日もきっちり全うしながら、明日への希望を胸に生きる人間の顔である。
この映画が公開された時には、さまざまな評価が交錯したと言われており、海外の新聞の映画評からは「低廉労働を美化している映画」とのやや戸惑い気味の論評もあったそうですが、自分はそうは感じませんでした。
むしろ、この映画を観た時に感じたのは「主人公と自分を重ね合わせる感覚」。
日々働きながら、大きな変化は起きない生活の中でも、時折頭によぎる過去の後悔や心の痛み。それでも今を生きながら、前を向いて自分の持ち場を守り責任を果たしていく。その暮らしを大切に繰り返していく覚悟。いつか迎えるであろう自らの最期の日まで、それを繰り返していく生き様に誇りを感じながら・・
なお「WOWOW」で放送されたということは、そろそろ地上波でも『PERFECT DAYS』が観られると思います。
一度観ておいて損のない映画ですので、ぜひご堪能あれ!