昨日は「野暮」の語源についてお話しました。
本日は、「野暮」の反対語である「通」についてであります。
「野暮」の反対語が「通」。「あの方は、なかなかのワイン通ですね」などと「通」というのは、今やちょっと気取ったイメージで使われることが多い気がいたしますが、「物事に通暁(つうぎょう)している人」を指す言葉であります。
この言葉も「野暮」同様、実は遊里や花柳界などの遊びに詳しく、その世界で生きる花魁や芸者たちの人情をよく心得た人に対して使われた、「通人(つうじん)」あるいは「通り者(とおりもの)」が語源らしい。
そして、この「通人」「通り者」の中にも、「大通」と「小通」といって、そのレベルに段差をつけて呼ぶ習慣も生まれたようです。「大通」とは、江戸時代で言えば、日本橋に大棚を構える商店や問屋の旦那衆を指す言葉だったようで、お金に糸目をつけずに粋に豪勢に遊ぶ人たちのこと。さしずめ、紀伊国屋文左衛門などはその代表例なのでしょう。一方、「小通」は「大通」に比較して、未熟な年若い者を指す言葉だったようで、あまり遊びに金をかけない者(かけられない者)をそう呼んだ様子。
ところで、先々週のNHK特集で、島根県安来市にある「足立美術館」が紹介されていました。
「足立美術館」は、数多くの横山大観の日本画を展示していることでも有名でありますが、それより何より、その日本庭園の美しさが世界に轟いている観光名所であります。21年連続で日本庭園NO.1の称号を得ている庭園は、外国人観光客をはじめ、来訪した人たちに「日本の美」「日本の文化」の奥深さを、驚嘆と感動を持って伝える唯一無二の存在になっています。
この足立美術館を創立したのが、安来市出身の実業家である足立全康氏。足立全康氏は明治32年に生まれ、14歳の時から地元で炭売りの商売を始めます。その後、さまざまな事業に手を広げたあと、戦後は大阪で繊維問屋と不動産事業で大成功を収めます。事業のかたわら、幼少より興味を持っていた日本画の収集家となって、昭和45年の71歳の時、郷土への恩返しと島根県の文化発展の一助になればと、足立美術館を創設しました。「大きく稼いで大きく遊ぶ」ことが足立全康氏の生き様だったようです。
まさに「大通」とは、この足立全康氏のような人物を指す言葉であります。
なお、今日でいえば、IT産業の若手経営者などは、一部の例外を除き、六本木や麻布台のタワーマンションへの投資には積極的でありますが、足立氏のような豪快な遊びには手を出さない様子が伺えます。このように粋ではない遊びしかしない人たちのことを、江戸時代では、さしづめ「小通」と呼んでいたのだと思います。
まぁ、いろいろご意見はあろうかと思いますが、ワタクシは、「大通」「小通」といった江戸時代のこの感覚を「粋」だと感じてしまいます。