映画を観た。
1968年、12月10日、雨。
ボクはこの物語ヒロインと同世代、40年前の三億円強奪事件が起きたときは高校生だった。当時の記憶はセピア色どころかほとん真白っぽいくらいだが、事件の輪郭ははっきり覚えている。犯罪ではあるが、事件に生臭さがなくヒーロー的扱いだったような気がする。(今でもたぶんにそうかも知れない)反権力への空気があちこちに充満していた時代だった。短時間で行われた離れ業はただ感嘆するばかり、「白いヘルメット男」の写真は強烈なインパクトを与えてくれた。その後の捜査の迷走ぶりも記憶に残る。時効となった75年までに約10億円近い費用がかかったとか。消えた3億円は,いまだ使われた形跡がないというから、さらに謎が謎を呼び、夢想が膨らむ。
本屋さんで「初恋」の文庫版を見た時も強烈。帯の宮崎あおいがじっとこちらをみつめていた。読むしかないと観念して読んだ。
孤独と権力への憎しみとそして漂う寂寞感。この文章は何のために書かれたのか。「初恋」と甘いタイトルだが、中身は淡々と当時を振り返る冷徹な文章であり、共に生きた友人達への追悼のことばのような哀調を持つ。フィクションであることにまちがいないのに、作者中原みすずが「3億円の犯人」であるかのようなリアリティを持つ。70年前後の時代の空気を3億円強奪犯人が憎しみと優しさを込めて語ってくれた。同時代人としては共感できる部分が多く、個人的にもいろいろ振り返ることが多くなる。
しかし、いったい、これは真実の物語だろうか?
作者中原みすず、プロフィール未公開。
DVDで「初恋」を観る。原作の冷徹さがなく、宮崎あおいのキュートさが目立ち、フィクション性が強くなる。映画になると、どうでもいいいろんな情報が氾濫してしまい、主題がぼやけてしまった。当時流行ったグループサウンズの歌声、ミニスカートのファッション、映画ポスター、クルマ、バイク、当時の街並。懐かしいものばかり。「ブルーシャトー」、「スワンの涙」、そちらの方に感激。原作はジャズ調だったのに、映画は歌謡曲調である。
20世紀はしだいに遠くなりにけり、、、、と思いに耽る。