★なぞの転校生
著者:眉村 卓
出版社:講談社
追悼 眉村 卓さん
SF作家眉村 卓さんの作品を紹介します。
「なぞの転校生」
50年ほど前の作品。
60年代の危機感が色濃く反映されている。
当時は東西冷戦の時代である。
キューバ危機、そして、ベトナム戦争など、
第二次世界大戦後の不安定さが最もヒートアップした時代であり、
特に核戦争への不安は極限的に増幅された時代である。
《なぞの転校生》はその核への不安を題材に、
次元放浪民という聞きなれない人々を登場させている。
タイムマシンによる過去未来を行き来するのではなく、
並列的に存在する幾つかの世界(次元)を移動する人という設定。
60年代のSF物語とはいえ、
半世紀後の現在にも通じるような物語であることに、
新鮮さと衝撃を感じた。
話は変わるが、
以前は《反核》は日本の目指す方向だったと想う。
核兵器に関する非核三原則は国是であり、
平和利用としての核エネルギーに関しても相当な慎重スタイルだったと思う。
しかし何時頃からか、
その姿勢が怪しくなる。
そしてついに不感症になる。
果ては、行け行けドンドン式になった。
核への不安と不信は全く解消されたわけではないのに、
全くの不感症。
2度の被曝と最大のメルトダウンを経験したのは世界で日本だけ。
しかしへこたれずに不感症。
富を求めて核エネルギーにすがる。
核の傘の下で平和を叫ぶことは偽善である。
私たちの社会は不感症と偽善に満ち溢れている。