朝焼けを見るために

神様からの贈り物。一瞬の時。

流水子   第7話

2005-03-17 16:49:41 | 流水子
『はい、これ。』
『まぁ!』
『誕生日おめでとう。』
『ありがとう、うれしい!・・・でも、どうして11本なの?』
『あなたを入れて、ちょうど1ダースの薔薇さ。』
『まぁ。・・・なんて歯の浮くような台詞。どこで仕入れてきたの?』
『せっかくかっこ良く決めたつもりだったのにそれはないだろぅ。』
『だって貴方と私の仲で、それこそかっこつけるのは、合わないんじゃない?』
『そうかなぁ。』
『吹き出すところだったわ。せっかくのお花とその気持ちが、笑い話になりそうよ。』
『そこまで言うなよ。』
『うふふ。』
『世間では成立しないと言われている、男女間の友情に、ヒビが入りそうだ!』
『ごめんなさい、そこまでのつもりじゃないのよ。』
『わかってるさ。』
『・・・。』
『またには、友情から抜け出てみたいものだな。』
『えっ、何か言った?』
『いや、独り言さ。』
『そう。』
『そう。』
『どうして、友情が成り立たないなんて、世間では言うのかしら、私達のように20数年、変わらないスタンスを保っている人達もいると言うのに。』
『変わらないねぇ。』
『そうでしょ?』
『まあね。そんな処だね。』


距離間が難しい。なによりも、その男性を失わないための。
夫婦としての、恋人としての、女友達としての、男友達としての、他人としての、様々な距離間。
恋人同士だとしたら、私はその男性にあまえすぎてしまう。その男性は、たぶんそれを当たり前の様に受け入れる。そして、お互いの距離間は同等ではなくなる。
夫婦だとしたら、あまりにもお互いが見えすぎてしまう。そして、その距離は短すぎ、張り詰めた糸のように。息詰まる日々が見える。
何も関係なかったら、そこに距離は生まれない。
友人、親友。そこには五分と五分。同等のほどよくたるみを持たせた距離がある。臆することもなく、威することもない。さらけ出した生の人間同士。
ずっとそのままの良い関係を続けたい。気持ちの良い人間同士として。恋人にも夫婦にもならないことが。
そのために、なにより20数年をかけて私の一番の理解者としての、その男性を失いたくない。もしかしたら、私の中で築いてきたものの、一番大切なものなのかも。
バランスをくずさないために、微妙な距離間の調節をする。

この薔薇の花束は、風通しのよい我が家の玄関につるそう。色鮮やかなドライフラワーにして。



「もう、勘弁してくれ。」そう心の中でさけんでいた。友情ごっこに付き合わされて、とも。ではない、わかってそうしてきたはず。
確かにお互いを理解しあえる、良い関係を随分長いことしてきた。もちろん、お互いの夫婦よりも長い時間。
他の友人は、俺達の関係に首をかしげる。本当に男と女としての関係ではないのかと。残念な、いや当然のことてして、一度もなかった。たぶんこれから先も。そうでなければ、我慢して当たり前のように続けてきた、今までがなにもないものになってしまう。
もしも、友情の枠を越えてしまったとしたら・・・。
俺とあの女性は、まるでふたつの粘土をまるめたように、ひとつになってしまう。間違いなく。そして、俺とあの女性というふたつのものが、存在を消してしまう。それが怖い。そのための我慢。それがゆえの、時々の俺の中の叫び。

いつだっか酔った勢いで口説いて、タイミング悪く仲間に邪魔され、照れ隠しに言ったことに、あの女性はこだわっているのかもしれない。
『もう少しこのまま、プラトニック(精神的な)なままでいきますか。』
暗闇の中で子供のように、コクンと頷いたに見える、羞じのないあの女性の顔。

プラトニックな結びつきの、潔さと難しさが。。。



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