朝焼けを見るために

神様からの贈り物。一瞬の時。

空間

2008-11-13 18:14:29 | 流水子
繁華街からはずれた、この小さな私設の美術館は、私のお気に入りの場所。
相変わらず、区切りのないフロアーは空調の音が響いている。
皮の年期の入ったソファーは、今回は壁につけてある。ガラスの中の絵を覗き込みなら、私はガラスに映りこむ自分の目を見つめていた。

あなたを誘わなくてよかった。地元出身の新進気鋭の美人日本画家の展示会。ポスターに刷り込まれている絵は、美しくもありグロテスクでもあった。いつでもこれる距離にありながら、その時間をつくることがなかなか難しい。今度ここに来るときは、あなたを誘ってこの空間を一緒に味わいたいを思っていた。
夕べから続くどうにもならない酷い頭痛をかかえながら、 手間取った銀行。
どうしても事務所に向かう気にならず、 ふと思い出したようにここへと車を向けた。
フロアーにおりたとたん、彼女の世界の中に引き込まれてしまった。
グロテスクなのではない。 美しいのではない。 吐き出さなくてはならないものが、 本質として日本がという繊細な手法によって描きだされている。
一枚一枚、医大生の解剖のスケッチのように、詳細に正確に描き出される内臓。
眩暈を覚える。しゃがみこみそうになる頭痛の重みを振り払いながら、一人できたことが正解だったと、あなたを誘えなかったことを正当化した。
あなたと並んで立っていたのなら、私はあなたの腕にすがって眩暈のままに倒れこんだかもしれない。

人は生きるために生きている人と、 死ぬために生きている人とがいる。
死ぬ替わりに描き、 生きる意味のために身を削る。
雁字搦めになりながら、 その鎖を解くために描き、 死を見つめる目に魂をいれながら、 自己の魂を奮い立たせる。
吐き出すものの確かさは、描き出すものの鮮明さと繊細さ。

あぁ、私は死に向かって生きている。
死があるからこそ、生きている。


帰り道、あなたの事務所の前を通った。カーポートに止められたままの車。エンジンは冷えたままだろう。

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