『どう?少しは落ち着いた。』
『一段落付いたものの、なかなか。』
『そうよね。』
『自分の中で、納得できないと言うのか。消化しきれないと言うのか。』
『わかるような気がするわ。』
『心配かけ通しでしたから。』
『…』
『ずっと、離れたままでしたから。』
『そうね。』
『ぽっかり穴が空いてしまったみたいで。どうしたら、その穴を埋めることができるのか…。』
『…』
『わからないんです。』
『そう。』
『いなくなってみて、改めて親父の大きさを感じています。』
『…』
『うるさい事は何もいわない親父でした。』
『そうなの。』
『結婚しておけばよかった…。』
『どこか妥協で…』
『…』
『それだけはできなかったでしょ。』
『せめて、そのくらいの…』
『きっと、お父様、そんな気持ちでだっら…。…望んではいなかったと思うわ。』
『俺にとっては、全てにおいていい親父でした。』
『本当にいいお父様だったのね。』
『…』
『大丈夫。』
『男ですから。』
『そうね。』
『泣いているわけにもいきませんから。』
『そうね。』
『焦らず頑張ります。』
『そう。』
『ぼちぼち、…頑張ります。』
しばらく振りに入ったメールは、その男性のお父様の訃報を知らせるものだった。
いつもなら日を置かず届く返信が、どうしたわけか滞っていた。ただ忙しいばかりのことではないだろうとは思ってはいた。
が、問いただすようなメールは、なぜだか打てないでいた。気になってはいた。暫くそっとしておこうと。日がただ忙しさにまかせて過ぎていた。そんな時だった。
『一段落つくまでは、連絡を控えようと…。』
短い、事実のみを伝えてきたメールに、その男性の言い表せぬ淋しさを感じた。
何も考えず、その男性の気持ちや想いとは別に、側にいてあげたいとただ思った。無条件、そうそのまま。
そう思える人間関係が、いったい何人いるのだろうか。近くにいたとしても、すぐにでも行ってあげたいと思える人ばかりではない。また反対に、どんなに遠くともそう思える人もいる。
実際には行くことはないが、その男性は私の中でそういった感情を、沸き立たせた人だった。不思議なことに。当たり前なことに。
とある展覧会に一人、足を運んだ。一通り見終え、会場からでたその場所。一面ガラス張りの一角。静かに置かれた一対のテーブルと椅子。
音が止まっていた。ガラスの向こうの、木立ちのざわめきだけが微かに耳に届く。静かに時が止まるでもなく流れているような、一枚の写真だった。
自分の前に立ちはだかっていてくれた者が、こんなにも大きなものだったのかと。箍が外れてしまったかのようだ。失ってしまうことを、想像することすらできなかった。
長く短い月日が、衲骨という儀式として現実に過ぎていた。
転勤、引っ越し、それを気遣ってくれるメール。その度に返信を。いつものように返していたら、きっとそこにあまえ、泣き言を並べたててしまったに違いないから。
それを重荷とも、それに揶癒をいれるとも、することはないその女性。だからこそ、返せなかったメール。
そこにあまえをもっていく訳にはいかない。一人の男として。
自分に課すべきもの。ストイックに生きていくつもりはない。だが、どこかで妥協しているような生き方もしたくはない。
それが親父との唯一約束。だったから。
『生きているのではなく、生かされている。そう思い感じることによって、全てのつじつまがあうのよ。』
その時には、到底理解できなかった、その女性の言葉。
データーホルダーをもう一度開く。
==第十五話完==
『一段落付いたものの、なかなか。』
『そうよね。』
『自分の中で、納得できないと言うのか。消化しきれないと言うのか。』
『わかるような気がするわ。』
『心配かけ通しでしたから。』
『…』
『ずっと、離れたままでしたから。』
『そうね。』
『ぽっかり穴が空いてしまったみたいで。どうしたら、その穴を埋めることができるのか…。』
『…』
『わからないんです。』
『そう。』
『いなくなってみて、改めて親父の大きさを感じています。』
『…』
『うるさい事は何もいわない親父でした。』
『そうなの。』
『結婚しておけばよかった…。』
『どこか妥協で…』
『…』
『それだけはできなかったでしょ。』
『せめて、そのくらいの…』
『きっと、お父様、そんな気持ちでだっら…。…望んではいなかったと思うわ。』
『俺にとっては、全てにおいていい親父でした。』
『本当にいいお父様だったのね。』
『…』
『大丈夫。』
『男ですから。』
『そうね。』
『泣いているわけにもいきませんから。』
『そうね。』
『焦らず頑張ります。』
『そう。』
『ぼちぼち、…頑張ります。』
しばらく振りに入ったメールは、その男性のお父様の訃報を知らせるものだった。
いつもなら日を置かず届く返信が、どうしたわけか滞っていた。ただ忙しいばかりのことではないだろうとは思ってはいた。
が、問いただすようなメールは、なぜだか打てないでいた。気になってはいた。暫くそっとしておこうと。日がただ忙しさにまかせて過ぎていた。そんな時だった。
『一段落つくまでは、連絡を控えようと…。』
短い、事実のみを伝えてきたメールに、その男性の言い表せぬ淋しさを感じた。
何も考えず、その男性の気持ちや想いとは別に、側にいてあげたいとただ思った。無条件、そうそのまま。
そう思える人間関係が、いったい何人いるのだろうか。近くにいたとしても、すぐにでも行ってあげたいと思える人ばかりではない。また反対に、どんなに遠くともそう思える人もいる。
実際には行くことはないが、その男性は私の中でそういった感情を、沸き立たせた人だった。不思議なことに。当たり前なことに。
とある展覧会に一人、足を運んだ。一通り見終え、会場からでたその場所。一面ガラス張りの一角。静かに置かれた一対のテーブルと椅子。
音が止まっていた。ガラスの向こうの、木立ちのざわめきだけが微かに耳に届く。静かに時が止まるでもなく流れているような、一枚の写真だった。
自分の前に立ちはだかっていてくれた者が、こんなにも大きなものだったのかと。箍が外れてしまったかのようだ。失ってしまうことを、想像することすらできなかった。
長く短い月日が、衲骨という儀式として現実に過ぎていた。
転勤、引っ越し、それを気遣ってくれるメール。その度に返信を。いつものように返していたら、きっとそこにあまえ、泣き言を並べたててしまったに違いないから。
それを重荷とも、それに揶癒をいれるとも、することはないその女性。だからこそ、返せなかったメール。
そこにあまえをもっていく訳にはいかない。一人の男として。
自分に課すべきもの。ストイックに生きていくつもりはない。だが、どこかで妥協しているような生き方もしたくはない。
それが親父との唯一約束。だったから。
『生きているのではなく、生かされている。そう思い感じることによって、全てのつじつまがあうのよ。』
その時には、到底理解できなかった、その女性の言葉。
データーホルダーをもう一度開く。
==第十五話完==
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