ストレスと火病
久しぶりに韓国を訪問し、懐かしい友人、先輩、知人らと旧交を温めました。ソウルの近代的建物や街並み、人々のファッショナブルな服装など見る限り、東京の暮らしが質素に思えるぐらいです。
しかし、実際にタクシーの運転手さんや、食堂のおじさんなどと話して生の声を聞くと、不景気の影は濃く、将来の見通しに関しては、不安や、やや自嘲気味の言葉が多く聞かれました。それでもどこか日本人にない活気、エネルギー、力みたいなものを感じるのは私だけでしょうか?
延世大学職業評論家のキム・ジョンソン氏が10年後を見越した将来有望な職業のトップテンの第一に挙げたのが心理カウンセラーでした。今後社会の競争がさらに激しくなることを予想し、人々のストレスが増加に対応するものとして、その需要が益々増えるだろうとの事です。
日本と韓国は、狭い国土に人口の多さ、社会的な構造と多くの共通点を持っていますから、人々がストレスを感じる面でも類似しているともいえる反面、やはり何か違うようです。日韓両国で活動し、言葉も自由に話す知人に、日本にいるとすごくストレスを感じると言われました。彼は日本で生まれ育った人間ですから、むしろ日本的価値観を持っているはずですが・・・火病(ファッビョン)という韓国・朝鮮文化圏にのみ発症する精神症候群として国際精神科協会に登録された文化結合症候群があります。極度の怒りを抑えることで様々な精神的スレス障害が起きるものと定義されています。恨(ハン)の文化とも関連する民族・地理・歴史的精神構造と解釈されることもあります。日韓のストレスの中にも質的な違いがあるとしたらこういった文化的背景があるのかもしれません。あえて言えば、内向的、静的ストレスに対し、外向的、動的ストレスでしょうか。韓国にはまた、秋月(旧盆)ストレスがあります。こちらは、既婚の女性が韓国伝統名節(旧盆、旧正月)行事の負担からくる心労、負担から来るものですが、最近は若い男女にも表れるらしく、親戚から結婚を勧められる面倒が原因で、未婚が増えてきた世相を反映するものです。
『東洋経済日報2008.8.29掲載』