韓国で美容整形の手術を受けた患者さんが、その後の抜糸やケアーを希望してクリニックに来院されることがあります。正式に手術を受けた病院から紹介状を持ってくる人もいますが、大部分は簡単な説明だけを受けて、何日後に抜糸をしてもらうようにと言う指示を受けただけという方が多いです。その為十分に問診と診察をしたうえで、慎重な処置が必要です。正直、詳細な手術内容を把握できない状態では、抜糸だけとはいえ治療に責任を持つことであり安易におこなっても良いかと自問することもありますが、逆の場合として当院へわざわざ韓国や中国からみえ、治療を受ける患者さんも多いことを考えれば、私が手術した患者さんではないとしても同じようにできるだけのケアーに努めることにしています。ただ一つだけいつも気になるのは、大抵患者さんは治療を受けた病院で「決して創部は濡らしてはいけません。」と注意されていることが多く、頭部や顔の手術の場合は一度も洗髪も洗顔もできず不快を我慢して、かえってストレスを感じるうえ、創部の状態も良好とは言えません。
確かに、医師の中でも怪我や手術の傷は、濡らさない方が良いと考えられていたのはそれ程昔の話ではありません。しかし洗わないことで血液や浸出液が汚れと共に傷の表面にこびり付き、むしろ細菌が繁殖しやすくなるだけではなく、付着物のため創傷治癒が適切におこなわれない可能性もあります。勿論、ごしごし擦ったり、強く洗うことは勧められませんが、軽く水流で流してあげることは、物理的に洗浄する意味にもなり、衛生面でも良いのです。水道水などからバイ菌が入ると心配されますが、実際はそのリスクは少なく、汚れを洗い流す効果の方がはるかに高いと考えられています。さらに消毒に関しても以前とは全く違った考え方になっています。傷は毎日消毒薬で消毒しガーゼを交換するのがあたり前でしたが、最近は特殊な場合を除いて形成外科をはじめ外科系の医師でもほとんど行いません。消毒薬は、細菌を殺す作用があるわけですが当然自分の体の細胞や組織に対しても毒でもあるはずです。さらに細菌は殺せないことはあっても、細胞は消毒薬によって間違いなくダメージを受けることを考えれば、傷を消毒することは創傷治癒過程では利益よりもむしろ害が多いことになります。通常の傷なら数日たてば綺麗に水で洗って、軟膏などで湿潤環境を整えてあげるだけで問題なく治ってくれるわけです。
冷静に考えれば理論的にも極当たり前のことですが、細菌に対する医師たちの恐れが、人間の体自体を見えなくしていたのでしょう。「病ではなく患者を診ろ。」とは、医学が発達した現代でも常に肝に銘ずるべき言葉です。