子供のころ、訪ねて来た客を相手に嬉しそうに囲碁を打っていた父の記憶があります。私自身は結局囲碁を習わずじまいで、当時の囲碁道具も今はどこにあるのかわかりません。ただ、ずっしりと重い木製の碁盤のぬくもりと、碁石の冷たい感触は手に残っています。同じ碁盤でも奈良の正倉院に納められている日本最古の碁盤、木画紫壇棊局(もくがしたんのききょく)はまさに国宝の名に値する華麗な一品です。東大寺献納目録には、百済の義慈王(第31代、599~660年)から藤原鎌足に碁石(撥鏤棊子、ばちるのきし)と碁石入れ(銀平脱合子、ぎんへいだつのごうす)が贈られた記録があり、碁盤もこの時一緒に送られてきたものとされてきました。しかし、これまで唐で制作されたと考えられていましたが、当時唐では用いず、朝鮮半島で多用された松を材料としていることから、朝鮮半島で制作した可能性が高いことが宮内庁正倉院事務所の調査で判明しました。正倉院の宝物の大部分が、シルクロードや遣唐使を通じて唐から伝わったという固定概念を覆す結果と注目されるものです。
碁の発祥は中国に「囲碁四千年」という言葉があるように、紀元前24世紀ごろ聖天子堯帝が囲碁を発明したという伝説があります。丹朱という息子があまり賢くなかったので、囲碁によって賢明な皇帝に育てるのが目的でしたが、結局 庶民出の舜を次の皇帝に定めましたから、その効果は如何だったのでしょうか?この伝説の為か?中国や韓国では、子供の頭を良くすると考えて、碁を習わせる親も多いようです。五世紀には、中国から朝鮮を経て日本に伝わった囲碁ですが、近代に入ってはむしろ日本を中心に囲碁は発展しました。しかしそこは教育熱心な韓国、中国が急速に力をつけ近年の世界大会では韓中を中心に争っているのが現実です。
私が留学していた80年代のソウルでは、道端で囲碁(パドウック)をしているアジョシ(おじさん)、それをまた野次馬があーだ、こーだ言いながら囲んでいる風景をよく目にしたものですが、そんな姿も今は昔かも知れません。