2020年より始まったいわゆる‘第4次韓流ブーム’は、コロナ禍で外出の機会が減り、自然と動画配信サービスの需要が高まったことが大きな原因であった。その時人気を二分した韓国ドラマが「愛の不時着」と「梨泰院クラス」。若者を中心に男女問わず高い評価を受けたサクセスストーリー「梨泰院クラス」は、その後日本でも「六本木クラス」としてリメイクされた。一方、北朝鮮のエリート将校と韓国財閥の娘のラブストーリー「愛の不時着」は、日本は勿論、世界のどの国であっても再現は不可能だろう。
大戦後の東西冷戦を起因とした分断国家のうちベトナムは76年、ドイツとイエメンは90年に統一した。唯一現在も分断状態であるのが韓国と北朝鮮である(中国と台湾を分断国家と定義すべきか異論はあるが)。この現実は歴史上の悲劇であり今も多くのの問題を抱えている反面、文学、演劇そしてドラマや映画などエンターテインメント分野の題材としては数多く取り上げられてきた。しかし、その描き方は時代や政治背景により異なっている。南北の関係をテーマにした作品が登場し始めたのは、韓国戦争(六二五戦争、朝鮮戦争1950~53)の傷跡が未だ癒えていない50年代後半からである。そして60年代から70年代は軍事政権下の反共法もあって、北朝鮮を好意的、同情的に描くことが許されず、無条件悪く描かなければ「容共」と見なされた。厳しい検閲による画一的な表現が変化してきたのは、
80年代の民主化運動を経験した60年生まれの「386世代」が映画界に台頭してからである。カン・ジェギュン監督による「シュリ」(1999)や「ブラザーフッド」(2004)、パク・チャヌク監督の「JSA」(2000)など、金大中政権で検閲が廃止され抑圧されてきた様々な物語が噴き出してきた。
その後、韓国映画は世界進出を目指すなかで、海外で広く受け入れられる娯楽性を強め、ファンタジーの要素を多く取り入れた作品が増えていった。今回紹介する「コンフィデンシャル 国際共助捜査」も、前作「コンフィデンシャル 共助」(2017)の続編として制作された痛快アクション大作である。ドラマ「愛の不時着」で寡黙だが、命がけで愛する女性を守り抜く北朝鮮将校を演じたヒョンビンが、ここでも実直で屈強な北朝鮮特殊捜査員(少佐)役として登場する。映画のストーリーは、北朝鮮の特殊捜査員リム・チョルリョン(ヒョンビン)が、北から逃亡した国際犯罪組織のリーダーの逮捕と消えた 10 億ドル奪還の任務を受け再びやってくる。北朝鮮側の捜査協力要請に対して、捜査の失敗により左遷されていた南の破天荒なベテラン刑事カン・ジンテ(ユ・へジン)は、現場復帰をかけ相棒役を志願する。 こうして2 人は前作に続いて 2 度目のタッグを組む。今回の注目は、チョルリョンに恋するジンテの義妹ミニョン(イム・ユリ)との再会とて恋の行方は?さらに、米国からも犯人を追って訪韓するイケメンFBI 捜査官のジャック(ダニエル・ヘニー)の登場で奇妙な三角関係の成立?と、さらにアクションだけでなく、韓流美男美女の共演もスケールアップし、男女ともに楽しめる。
韓国ドラマや映画では暫し、娯楽作品であっても社会に存在する現状や問題、権力者の横暴、腐敗などを描き、それを乗り越えていく主人公に視聴者はカタルシスを感じる。そして
南北分断は歴史的にも、国の根本的なあり方や、国際政治その他の面でも最も根本的なテーマである。反面、分断から70年以上過ぎ、韓国の人々にとって現況への一種の慣れと、現実の受け入れが進み、切実な統一への希望は希薄になっている。映画で北朝鮮の登場人物を魅力的な才能の持ち主や、スーパーマンのように描くのは、何とか人々の関心を繋ぎ止めようとする意図もあるのではと勝手に想像もする。先日のニュースは、北朝鮮内のコメントで韓国に対して’南朝鮮‘ではなく‘大韓民国’との表現を使用したことが伝えられた。もはや別々の国であるという意味であろうか。現時点では、北朝鮮こそ韓国にとって最も近くて遠い国になっているのかも知れない。