2000年代初め、‘冬ソナ’や‘チャングムの誓い‘などのドラマ放送をきっかけに‘第一次韓流ブーム’が巻き起こった。それに伴い韓国文化、社会に対する関心も集まるなかで、韓国の美容外科の現状が興味本位で伝えられた結果、「美容整形大国」いう表現がメディアで使われ始めた。この言葉の裏側には、それまで普通の日本人の感覚=所謂「親からもらった体にメスを入れる」行為への抵抗感もあり、少なからず否定的な意味合いも含まれていたと思う。しかし、あらためて考えると日本以上に儒教が社会規範や価値観に強い影響を持った韓国で、なぜ美容外科が広く受け入れられたのだろうか?
韓国では子供の頃、しいては出産直後から、容姿や外見を評価される。親戚を含め周囲から男女限らず、この子は美男だ、美女だ、あるいはその逆も歯に衣を着せず言われる。それは幼少時から大人になるまで続き、褒められるにしろそうでないにしろ本人は当然強く意識せざるを得ない。ヒトは性格や個性、能力を持って総合的に評価される。しかし、韓国のように価値評価の中で外見の占める割合が高いと考えら社会では、特に女性の場合、美を追求することが自己価値を上げると考えるのも当然と言えば当然。最新の美容法や化粧品が広がる以前から、民間療法的な美容法や美肌法が多くあるのも、韓国女性が昔から美容に高い関心を持ち、実践してきた証拠である。美容外科をはじめとした、美容医療が発展し、広く受け入れられる土壌は十分であっただろう。市場の原理として、重要があれば供給が生まれる。私が韓国で医学を学んでいた80~90年代には既に、美容外科の基礎である形成外科は人気であり、専門医過程に進むのは狭き門であった。結果的に優秀な学生が集まり、結果的に現在の韓国美容医療の発展に至っている。
現在、韓国全体で美容外科、美容皮膚科は4千数百件とされるが、その半分がソウルに存在する。その中でもお洒落なショッピング街として知られるソウル江南地区の狎鷗亭(アックジョン)には、通称‘美容整形通り‘といわれる一角もあり、およそ800件が集中している。今回の作品は、この狎鷗亭(アックジョン)亭を今のような「美容整形の聖地」にまでに創り上げた男の物語である。ストーリーは、狎鷗亭(アックジョン)で生まれ育った風変りだが憎めない主人公テグク(マ・ドンソク)を中心に展開する。生業は不明だが、とにかく比類のない顔の広さと、愛嬌、それに腕っぷしで、頼まれごとは何でも引き受ける不思議な人物テグクは、天才的な技術を持ちながら騙されて医師免許はく奪の上、多額の借金まで背負うことになった美容外科医ジウ(チョン・ギョンホ)と組み、かつてない新しい美容整形ビジネスをこの地で始めようと決意する。かつては弟分だったヤクザの実業家、中国人の富豪、怪しげな美容サロンの女主人と、一癖も二癖もある人間たちを巻き込んで話は展開していくのだが・・・ 主演のマ・ドンソクはシリーズ化した「犯罪都市」の大成功で、今韓国映画界でNo1ヒットメーカーの座を確実にしている。今回は、腕力こそ多少封印したが、ユーモア溢れる存在感は健在だ。
最近、人種や性差別に対する人権運動の高まりと共に、ルッキズム(lookism、外見重視主義)を批判する論調もよく目にするようになった。韓国はある意味わかり易い?ルッキズム社会である。一方、日本は建前上「見た目より中身、外見より心」を当然の理として語られて来た。大ヒットした韓国映画「カンナさん大成功です(2006)」は才能があっても容姿で損をしてきた女性歌手が、整形手術を受け大変身し成功を目指すストーリーである。まさに映画の舞台となったのは、今回の作品とほぼ同じ時期の話だが、実はその原作は日本の漫画であった。現在では美容医療も韓国に劣らず人々の中に浸透しているが、当時の日本社会の本音を、韓国映画の中でより成功物語として映像化したと考えると面白い。
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