ここ数年はマスコミやネット上に人口知能(AI)という言葉が登場しない日はないかも知れません。そのAIへの関心をに一気に集めるきっかけになった大きな出来事として2016年3月、囲碁の世界では最強の一人と目される韓国の李 世ドル(イ・セドル)棋士とGoogleが開発したゲームAI「AlphaGO」の対戦がありました。対局前の大方の予想は李 世ドル其士優勢であったのが、結果は4勝1敗でAlphaGOの勝利、人工知能が囲碁という高度な頭脳ゲームにおいて人間を打ち負かしたことは世界を驚かせました。遡る事20年ほど前、1997年に当時チェスの世界チャンピオンであり天才といわれたカスパロフに初めてIBMのコンピューター「DEEP BLUE」が勝った時以上の衝撃です。この時は、スーパーコンピューターの計算ミスによる誤手が、逆にまぐれ勝利を導いたとも評価もありましたが、AIと対局した李世ドル其士は「AlphaGOはほぼ完璧なゲームをした。一度も自分がリードしたと感じなかった。」とも言わしめました。
人工知能という言葉は、1956年にアメリカのダートマス大学で行われた研究者の会議において使われたのが最初だと言われています。その後、コンピューターの計算能力は画期的に進歩しましたが、知識やデータの処理が速い機械という範疇を超えるまでには至らないレベルでしたが、2000年代になって人間の脳神経回路を模索して考案された「ニューラルネットワーク」と「ディープラーニング」という自ら対象の特徴を見つけて学習する技術を取り入れたことで「知能」つまり、「知識や経験を基に思考し判断を下す力」をつけ始めたと言われています。この二つの基本技術は、コンピューター処理性能の飛躍的向上とインターネット網の広がりによるビッグデータの蓄積で、或る条件下では既に人間を凌駕するものです。
世界で最も早く高齢化、人口減少の道を突き進む日本はもちろん、それ以上のスピードで少子化が深刻な韓国でも、減少する労働人口を補うためには様々仕事の現場にAIは導入されていくでしょう。人手不足を補い、業務を助けるテクノロジーとしての期待する半面、人間を追い払い、とって代わる脅威になるのではという不安を持つ人もいるでしょう。医師の中でもそれは同じです。「AIを用いた診療支援を必要とするか?」というアンケートに半分以上が有効だと回答する一方、AIの得意分野とされる画像診断や情報をもとに可能性の高い疾病を分析してピックアップする作業から始まり将来的には医師の役割が代置され縮小していくのではないかとの声も聞かれます。これは医療に限らず、ほぼすべての業種そして人間の存在そのものを脅かすのではないか、かつてSF映画や小説で描かれた世界を想像してしまいそうですね。
AIと共存する社会を考えるとき哲学者ジョン・サールが提唱した「弱いAI」と「強いAI」という分類が参考になるのではないかと考えます。ここで言う弱い、強いはAI の処理能力や有用性を意味するものではなく、「物事の意味を理解し自ら思考する知能」を持つかどうかです。与えられた条件下のゲームで莫大な計算能力を発揮して人間のチャンピオンに勝利したとしてもそれは「弱いAI」の範疇であり、一方役に立たなかったとしても自ら思考し何らかの答えを導けたならば「強いAI」と判断されます。まだ、本当の意味での「強いAI」は実現していませんし、「真の知性」を持つAIの実現は不可能だとする研究者もいます。AlphaGOも実は囲碁のルールも意味も理解してはいないのです。 対局後、李世ドル其士は「古い考え方に疑問を持ち、これから学ぶことが増えた。」とコメントしました。その言葉の中に「強い人間」の可能性と、AIと共存するヒントがあるような気がします。
アジアン美容クリニック 院長 、帝京大学医学部、形成外科、美容外科講師 鄭 憲
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