『SAPIO』09年7月22日号掲載の「ゴーマニズム宣言」で小林よしのりが、6月22日に放映されたNHKの番組「〃集団自決〃戦後64年の告白~沖縄 渡嘉敷島~」について描いている。『SAPIO』7月8日号以上に酷い内容で、番組に出た金城重栄・重明兄弟に対して、小林は自らが聞いたという伊江島の「集団自決」の話と強引に結びつけて次のように描いている。
〈NHKに出た金城兄弟も、
「軍命」や「戦陣訓」に従ったなどという
理性的な行動の範囲を超えている。
殺人に夢中になっているではないか!
それは彼らが血気盛んで
なおかつ情緒が不安定な
思春期だったせいもあろう。
離島の共同性や閉塞性が
パニックを引き起こしやすいという
要因も考えねばならない〉(『SAPIO』09年7月22日号 60ページ〉
引用部には小林の狙いが露骨に現れている。渡嘉敷島の「集団自決」(強制集団死)における「軍命」や「戦陣訓」の影響を否定し、島にいた赤松嘉次隊長率いる日本軍はまったく関わりなかったかのように描くこと。その上で金城兄弟の行為を焦点化し、「集団自決」の原因を住民と島の共同体の問題にすりかえていくことだ。
そのために小林は、当時10代の若者であった金城兄弟がどのような教育を受けてきて、島の日本軍からもどのような影響を受けていたかなど、彼らの行動の背景にある問題は見ようとしない。その上で〈思春期〉〈パニック〉などの心理的要因に彼らの行動の理由を矮小化する。物心ついたときから15年戦争のただ中で育ち、軍国主義教育を一身に受けた当時10代の若者たちは、もっとも強く日本軍の影響を受け、その命令を忠実に実行していった世代である。そのことに小林は意識的に触れないのだ。
そもそも、金城兄弟をはじめ渡嘉敷島の住民たちが、なぜ「集団自決」(強制集団死)に追い込まれなければならなかったのか。慶良間諸島に海上特攻隊の基地を置き、住民が島から出ることを禁じて、特攻出撃の後に米軍が掃討戦のため上陸すれば、島に残った兵隊と朝鮮人軍夫、住民は玉砕=全滅必至の作戦を立て、命令、指揮したのは誰だったのか。大本営・第32軍・現地部隊の作戦内容やその準備、実際の戦闘の有様、現地部隊の下で住民がどのように生活し、行動したのか。それらを総合的に検討しないで「集団自決」(強制集団死)の何が分かるというのか。
〈殺人に夢中になっているではないか!〉という表現はおぞましい限りで、よくここまで描けるものだ。小林は金城兄弟の行動を焦点化することで、赤松隊による住民虐殺や「集団自決」の命令・強制の問題を曖昧にし、遺族援護金の問題へと論点をずらす。そして、あたかも遺族援護金を得た渡嘉敷島住民の側に問題があるかのように描き出す。
〈赤松隊長は、戦後、
「自決命令を下した」という
濡れ衣を黙って着た。
「軍命令に従った」
ということにすれば、
島民に「遺族援護金」が
支給されるからである〉(『SAPIO』7月22日号 61ページ)。
小林はこう描いているが、それがまったくの嘘なのは、少し資料に当たれば分かることだ。すでに1960年代から赤松元隊長は、週刊誌や新聞の取材、手記などで自らの命令を否定し、防衛隊が勝手に手榴弾を持ち出して住民に配った、と責任転嫁を図っていた。〈濡れ衣を黙って着た〉どころか、自己弁護のために積極的に語っていたのが赤松隊長の実際の姿であり、小林がその程度のことを知らないはずがない。よくも平然と嘘が描けるものだ。
金城兄弟を取材したNHKの番組を取り上げ、中でも金城重明沖縄キリスト教短期大学名誉教授に攻撃を加えているのは、小林よしのりだけではない。大江・岩波沖縄戦裁判で被告側の証人として出張法廷に立ち、現在も講演会活動などを行っているがゆえに、金城名誉教授が右派勢力から集中的に攻撃にさらされている。それに対して、大江・岩波沖縄戦裁判の支援団体や支援者は、どれだけ対応しているだろうか。
勇気をもって証人となった人を守り、支えるのは支援団体、支援者の義務だろう。私自身、今までそれができていなかったことを反省しながら書いているのだが、支援団体は抗議声明を出すなど金城氏を守る取り組みをもっとやるべきだし、支援者も雑誌や新聞への評論執筆や投稿、ブログでの意見発信などを積極的に行っていく必要がある。
今回の「ゴーマニズム宣言」に対して批判しないで黙っていたら、金城名誉教授への攻撃が量・質ともにさらにエスカレートしていく危険性を感じる。「遺族援護金」との関係で金城兄弟を攻撃する小林の描き方は挑発的かつ扇情的で、金城兄弟に対して〈何という怖ろしい罪深さか!〉とまで描いているのだ。
このように「ゴーマニズム宣言」に描かれて攻撃される例を目にすると、裁判の証人になることや「集団自決」(強制集団死)について証言することに萎縮する人も出るだろう。また、NHKの戦争を扱った番組制作に対する攻撃、圧力もさらに強まるはずだ。小林はそれも狙って描いている。
くり返すが、金城兄弟への攻撃を黙って見ていてはいけない。
〈NHKに出た金城兄弟も、
「軍命」や「戦陣訓」に従ったなどという
理性的な行動の範囲を超えている。
殺人に夢中になっているではないか!
それは彼らが血気盛んで
なおかつ情緒が不安定な
思春期だったせいもあろう。
離島の共同性や閉塞性が
パニックを引き起こしやすいという
要因も考えねばならない〉(『SAPIO』09年7月22日号 60ページ〉
引用部には小林の狙いが露骨に現れている。渡嘉敷島の「集団自決」(強制集団死)における「軍命」や「戦陣訓」の影響を否定し、島にいた赤松嘉次隊長率いる日本軍はまったく関わりなかったかのように描くこと。その上で金城兄弟の行為を焦点化し、「集団自決」の原因を住民と島の共同体の問題にすりかえていくことだ。
そのために小林は、当時10代の若者であった金城兄弟がどのような教育を受けてきて、島の日本軍からもどのような影響を受けていたかなど、彼らの行動の背景にある問題は見ようとしない。その上で〈思春期〉〈パニック〉などの心理的要因に彼らの行動の理由を矮小化する。物心ついたときから15年戦争のただ中で育ち、軍国主義教育を一身に受けた当時10代の若者たちは、もっとも強く日本軍の影響を受け、その命令を忠実に実行していった世代である。そのことに小林は意識的に触れないのだ。
そもそも、金城兄弟をはじめ渡嘉敷島の住民たちが、なぜ「集団自決」(強制集団死)に追い込まれなければならなかったのか。慶良間諸島に海上特攻隊の基地を置き、住民が島から出ることを禁じて、特攻出撃の後に米軍が掃討戦のため上陸すれば、島に残った兵隊と朝鮮人軍夫、住民は玉砕=全滅必至の作戦を立て、命令、指揮したのは誰だったのか。大本営・第32軍・現地部隊の作戦内容やその準備、実際の戦闘の有様、現地部隊の下で住民がどのように生活し、行動したのか。それらを総合的に検討しないで「集団自決」(強制集団死)の何が分かるというのか。
〈殺人に夢中になっているではないか!〉という表現はおぞましい限りで、よくここまで描けるものだ。小林は金城兄弟の行動を焦点化することで、赤松隊による住民虐殺や「集団自決」の命令・強制の問題を曖昧にし、遺族援護金の問題へと論点をずらす。そして、あたかも遺族援護金を得た渡嘉敷島住民の側に問題があるかのように描き出す。
〈赤松隊長は、戦後、
「自決命令を下した」という
濡れ衣を黙って着た。
「軍命令に従った」
ということにすれば、
島民に「遺族援護金」が
支給されるからである〉(『SAPIO』7月22日号 61ページ)。
小林はこう描いているが、それがまったくの嘘なのは、少し資料に当たれば分かることだ。すでに1960年代から赤松元隊長は、週刊誌や新聞の取材、手記などで自らの命令を否定し、防衛隊が勝手に手榴弾を持ち出して住民に配った、と責任転嫁を図っていた。〈濡れ衣を黙って着た〉どころか、自己弁護のために積極的に語っていたのが赤松隊長の実際の姿であり、小林がその程度のことを知らないはずがない。よくも平然と嘘が描けるものだ。
金城兄弟を取材したNHKの番組を取り上げ、中でも金城重明沖縄キリスト教短期大学名誉教授に攻撃を加えているのは、小林よしのりだけではない。大江・岩波沖縄戦裁判で被告側の証人として出張法廷に立ち、現在も講演会活動などを行っているがゆえに、金城名誉教授が右派勢力から集中的に攻撃にさらされている。それに対して、大江・岩波沖縄戦裁判の支援団体や支援者は、どれだけ対応しているだろうか。
勇気をもって証人となった人を守り、支えるのは支援団体、支援者の義務だろう。私自身、今までそれができていなかったことを反省しながら書いているのだが、支援団体は抗議声明を出すなど金城氏を守る取り組みをもっとやるべきだし、支援者も雑誌や新聞への評論執筆や投稿、ブログでの意見発信などを積極的に行っていく必要がある。
今回の「ゴーマニズム宣言」に対して批判しないで黙っていたら、金城名誉教授への攻撃が量・質ともにさらにエスカレートしていく危険性を感じる。「遺族援護金」との関係で金城兄弟を攻撃する小林の描き方は挑発的かつ扇情的で、金城兄弟に対して〈何という怖ろしい罪深さか!〉とまで描いているのだ。
このように「ゴーマニズム宣言」に描かれて攻撃される例を目にすると、裁判の証人になることや「集団自決」(強制集団死)について証言することに萎縮する人も出るだろう。また、NHKの戦争を扱った番組制作に対する攻撃、圧力もさらに強まるはずだ。小林はそれも狙って描いている。
くり返すが、金城兄弟への攻撃を黙って見ていてはいけない。
彼らの嫌らしい沖縄攻撃に対して沖縄のいわゆる表現する方々(物言う方々)のセンスも思想性も行為も試されています。目取真さんの背後にはまた多くの支持する方々がいるに違いありません!沈黙する知識人(特に大学の教員たち)のスタンスも試されています!彼らはどこを向いているのでしょうね?!お身体を大切に存分に書かれてください!
日本ナショナリストの小林一派は、日本という国の泡のようなたぐいなのでしょう。泡は吹き飛んでいきます。アメリカではあなたの作品を熱心に研究している研究者もいると先日聞きました。あなたの行為やことばは世界につながっているのです!もちろんアジアの人々にも。できれば数ヶ国語に翻訳して発信したいものです!
私が一番懸念しているのは、金城重明氏に対する攻撃が今のままエスカレートすると、直接的に危害を加える者が出やしないかということです。
今回の小林のマンガは、わずか8ページの中に、「集団自決」の殺害、自殺場面を描いたコマが8コマもあります。
くり返し出てくる絵から受ける印象は強烈であり、極めて扇情的です。
論理的批判よりも情緒的な嫌悪感、敵愾心を呼び起こす効果を、小林のマンガは持っています。
それに煽られた者が、ネット上での攻撃以上のことをしないか。
そのことに注意しなければなりません。
『世界』6月号で古木氏が触れていますが、知識人といわれる人たちの大半が小林を批判しないのは、グロテスクな似顔絵などを描かれて攻撃されることを恐れているからでしょう。
論理的な議論ではなく、マンガという絵の印象で相手にダメージを与える手法に、知識人たちは、どうせマンガだから、と見下したポーズをとってリスク回避してきたのが実情でしょう。
しかし、それがますます小林を増長させることになったのです。
同時に、小林を批判すれば、その同調者からネット上の攻撃も受けます。
それにもまた萎縮効果を生み出しているのでしょう。
しかし、今回の「ゴーマニズム宣言」で大江・岩波沖縄戦裁判の証人が攻撃されているのに、それを傍観していたら、裁判の支援団体・支援者は無責任のそしりを免れないでしょう。
なさきさんは「小林一派は、日本という国の泡のようなたぐい」と見ているようですが、私はそうは思いません。
そういう高見から見下したような姿勢は、問題を軽く扱ってすませたい、という心理的逃げを生み出します。
後方から支持、応援するのではなく、自分が前面に出て批判することが問われています。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/s/%C2%E7%B9%BE
池田にとっては特に専門分野とも思えぬ領域で、その主張も「一次資料を見たことがないが」と言い切った上で曽野綾子の著作をまるまんま信じたり、ありきたりな左翼・岩波文化人にすぎなかったりで、とりたてて目新しいものではないのですが、
昨年8月30日のエントリ
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/daccc750121972feb0f42d62df02cc14
で金城重明氏について
> 本人は米軍に投降したのだから、これは「集団自決」ではなく殺人であり、金城氏こそ者である。軍=悪、国民=被害者という図式は、GHQが戦争責任を軍に限定することによって占領コストを削減するための情報操作だったのだ。
と書いています。
私が、集団自決の生存者に対するこのような誹謗中傷を見たのはこれが初めてなのですが、
(正直、このエントリを読んだとき、その曲解ぶりに気分が悪くなってその後を読むのをやめたほどです)
これは過去からある論調なのでしょうか?
そうでないとしたら、今回小林よしのりが池田の発言を援用して自説を立てた可能性はないでしょうか。
池田は「つくる会」などには直接関与していませんが、“アルファブロガー”などと呼ばれそのブログの読者は多いらしく、大江訴訟に関するエントリにはかなりの数のコメントがついており強い影響力が感じられます。
江崎孝は沖縄生まれらしいですが、ウチナーンチュではありません。彼は歴史歪曲勢力の中では重要な役どころを務めているかもしれないです。
大江・岩波沖縄戦裁判の一審・二審で完敗し、その苛立ちを証人となった金城氏や宮城晴美氏らにぶつけているのでしょう。
裁判では出した証拠や証言がことごとく否定され、もはや手段を選ばずに個人攻撃をやっている面もあると思います。
小林よしのりと池田信夫氏のつながりは分かりませんが、狼魔人日記からは情報を仕入れていますから、キー坊さんが指摘されているように「重要な役どころを務めている」のでしょう。
彼らを過小評価はできますまい。
ボクたちは、彼らを馬鹿にし、
相手にすべきでないといっていた間に、
彼らは大キャンペーンを作り上げました。
それを信じ、拡大する役割を、
少なくない若者は担っています。
ひとつひとつ、反論していきましょう。
そして、SAPIOを実際にみせ、
彼らの意図を見抜きましょう。
同号では「関東大震災の朝鮮人虐殺」も
否定するものが載せられています。
ぜひ多くの方々のご観覧、そしてご購入、ご支援をお願い致します。
この作品だけでは、戦前と戦後の教育の内容の違いも知らない今の若者には解説するのに資料不足かもしれませんが、38分の長さではしかたがないのかもしれません。アメリカが作った「汝の敵・日本を知れ」(60分)などと一緒に上映すれば、子どもたちを侵略戦争の殺人兵器へと作り替えてゆく皇民化教育の実態がより分かりやすくなると思います。
・沖縄戦立案・遂行の昭和天皇(制)の戦争責任
・沖縄戦における昭和天皇の軍隊・皇軍の住民虐殺の実相
・戦後沖縄分離(米軍支配)の昭和天皇の責任(天皇メッセージ)
・昭和天皇の戦争責任の隠ぺい活動にいそしむ「平成」の天皇(制)問題
などなど(上記以外にも)、忘れてはいけないこと・決して水にながしてはいけない問題は存在することを地道に語り継ぐ活動を継続する。
一個人の証言ではなく層として沖縄戦の実相証言活動が存在すること。……そのことを伝え続けることが、デマゴギーに打ち勝つ方法ではないでしょうか?
証言の一つ一つに、語った人たちの痛切な思いがこもっているでしょう。
それを十分に生かしきれていない弱さが、沖縄の私たちにあると思います。
地域での学習会やビデオ上映など、地道な取り組みを進めていかねばと思います。
文章の正確性、その内容の重要性をみてファンになりました。がんばってください。
私も小林のうそを本当に辟易して感じています。小林は自分を信じる人間がばかなのだと裁判で卑屈にも語っていますが、そこの部分も調査してしっかりと批判していくことが必要だと思います。自分を信じた人間をばかだとののしりながら著作活動をする小林を信じつづけるばかばかしさを誰にもわかってもらえるようになりたいなと思います。