結局それから一週間を経過した週末の午後、本田は弟を伴って店を見に行った。(この店『フォワイエ・ポウ』の開業は、確か5~6年前と聞く。いやいや、捨てたものではないぞ・・・)本田が、最後にこの店に訪れたのは3年前。(いいよ、やはりこの店のレイアウトは、今でも十分通用する店のレイアウトだ!もうあと4~5年くらいかな、しばらくは、このまま改装せずに、何とか使えるかもしれない・・・)
しかし今、こうして店の中に入り、別の何かを感じた。
(・・・第7回掲載より・・・)
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掲載済みの小説「フォワイエ・ポウ」は、下記から入れます。
1)第1回掲載(2月9日)
2)第2回掲載(2月10日)
3)第3回掲載「1章」(2月15日)
4)第4回掲載(2月17日)
5)第5回掲載(2月22日)
6)第6回掲載「2章」(安易な決断-1)(2月24日)
7)第7回掲載「2章」(安易な決断-2)(3月1日)
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『フォワイエ・ポウ』
著:ジョージ青木
2章
1(安易な決断)
(1) -3
水商売の店は、
まず、夜のとばりが開き、
ネオン街の全てのネオンが燦燦ときらめき、
そのネオンのもと、綺麗どころの女性が闊歩し、
アルコールで上機嫌になった酔っぱらいが景気よく騒ぎ、屯(たむろ)し、
そんな周囲外部の環境を知りつつ、目的の店に入れば、
馴染みのマスターが、いつもと変わらない立ち居振る舞いで訪問客を迎え入れる、
いつもどおりに迎え入れられ、外部の喧騒から離れ救われ、
ようやく目的の店の「止まり木」に鎮座する。
その、いつものその空間で、
まずは一口、アルコールが入る、
最初の一口は、次を誘う。
アルコールの誘惑に駆られ、さらに、
さらに飲むほどに、酔うほどに、
アルコールの隠し持つ、
危険にして侮れない魔力が、身体中に芽生える…
こんな魔力に牽引されつつ、
もって、不用意に、
身体(からだ)全体に集積されてしまった昼間の鬱積(うっせき)から、少しずつ開放されはじめる…
おおむね『のみ助』という人種は、大なり小なり上述の感覚を求め、夜の街を徘徊するのである。
本田は思い出した・・・
客がしばらく足を踏み入れていない店、その店周りを伺いながら、本田は想っていた。
(今まで自分のたどってきた夜の巷の只中にいる自分の姿が、ここにあるか・・・)
閉店してしまった水商売の店は、冴えない。つまり、店の持つ水商売の生気を完全に揮発させ、蒸発させてしまうに十分な歳月である。この店は、今年に入りまもなく閉店した。閉店の後すでに半年以上も経過している。
(夜の店が閉店すると、その店が腐る!)
不思議なもので、客の出入りが止まった店は逆に、夜の業界の裏側の哀れさを漂わす。
しかし、なぜか、そういう状況とは違った独特な雰囲気が漂っていた。
(なんだか、思い出した・・・)
本田は、よく飲み歩いていた頃、羽振りのよかったサラリーマン現役時代の姿を思い浮かべていた。
条件をチェックする前に、本田はすでに決めていた。
(最低でも、今から5年間が勝負だ、できる!俺なら、できる!)
弟の譲治からこの話が持ち上がったあの夜、すでに本田の心は動いていた。
(今すぐに、喉から手が出そうだ。今の俺には、うってつけの話である、とにかく日銭(ひぜに)が欲しい。もうこの事務所は立ち行かない。だから飲み屋の店をやってもいい。そう、この店であれば、俺の手でやってみたい・・・)
(2)
閉店したまま半年間、当時のままになっている店舗の様子を、自分の目で確かめにいったのは、その翌日である。
店舗経営の話でにわかに盛り上がっていた本田の気分は、あらためて冷静になっていた。下見に行ったその夜、再び弟の譲治と会い、あらためて打ち合わせした。
三日後、つまり今週中に契約書を取り交わせなければならないが、まだ数日の猶予がある。契約の当事者となる本田には、まだこの時点で断ることも可能なのだ。
互いにもう一度、このバー開業の話を整理してみた。
まず、借財の問題について、
先の経営者・山根が負っている借財は、1千200万円。このまま山根が刑務所に入ったままであれば、その支払い責任は譲治が負い、代わりに支払わねばならなくなる。
これを、毎月10万円の返済でいけば、10年で返済完了。つまり借金は10年かけて支払う計算になる。
家賃は月間15万円、家主に納めていた。
毎月25万円ですでに6ヶ月間にわたって滞納。
家主と山根潔の関係は、そっくりそのまま家主と本田譲治の関係である。
25万円の支払い義務の半年間滞納は、現時点ですでに150万円に膨れ上がっている計算となる。
この時点での肝心な問題は、この半年間の滞納部分の支払い責任が発生しており、その責任がすでに本田譲治に発生していた。本田幸一には、それに気付いていなかった。
家主と本田譲治の間に、本田幸一の知らない了解事項が交わされていた。
その了解事項をかいつまんで整理すれば、次のようになる。
まず、譲治は、山根潔の後継者となって店の経営に名乗りを上げる誰かを見つけてくる。そうすればその名乗りを上げた誰かに、その借金を背負わせてしまい、店を継続させる。そうすることにより当面は、譲治が負うべき責任は免れ、その代わり店の運営をする誰かが、責任を毎月実行し続ける。しかし譲治は継続して、そのあらたな誰かの保証人になる。こんな話がすでに背景にあった。
本田幸一は、すでにその標的であり、今、それを引き受けようとしていたのである。
本田自身、自分の状況を整理した。
(なんだか、これではピエロじゃないか。もう、自分はわかっている・・・)
さらに、疑い深く考えれば、
(1200万円の根拠も、定かでない。もっと内容を調べれば、もっと安くできる可能性無きにしも非(あらず)!かもしれない、しかし、なんだか逆に面倒が起きそうだ。ここは弟が絡んでいる)
弟が関係していることが、さらに本田の思考回路を鈍らせた。
(とにかくここは、受けて立つことにすればいい・・・)
だから、
(自分にかかわりのない負債1200万円は、自分が無利息で借り入れた資金と思い込み、そう、勘違いし、それを全ての開業経費である。と、考えれば、話は違ってくる・・・)
一刻も早く、いや、あえて言い替えれば、本田は明日からでも店の売り上げが発生しさえすれば、それでいい。現金収入が欲しく、本田はあらためて自分を修正し、飲み屋経営を引き受ける姿勢で耳を傾けようとし、譲治をまとめ役と考えるよう、自らの思考回路を無理やり再修正しようとした。
「毎月25万円の家賃だと思えばいいじゃないか!」
「な~に、兄貴、ちょっと考え方を替えれば、それで問題は解決したも同じだよ」
「な、兄貴さん。物の価値がぐんぐん上がる今どきの事ですよ。新規に店を出そうと思ったら、たいへんだ。そうだよね。それと比べれば、これは安いものよ。内装に約5百万か、いや8百万はいるはずだ。決して安くないよ。俺の友達に聞いたから、よくわかる。それに加えてだな、厨房機材も馬鹿にならんよ」
「でも今の製氷機は十分使えるし、もちろんクーラーは付いているし。いやエアコンだぜ、今付いているやつは。つまり冬は暖房に使えるしろものだからな。いやいや捨てたもんじゃないぜ、あのカウンターの椅子も、使える。いまからあらためて買えば、これ、けっこう高いよ。センスいいぜ、あの椅子は籐でできているじゃないか・・・」
なんだかもっともな話をする譲治。
「ウム、あれはどうなってるんだ。あの、ビル全体が飲食店で、さらに同じ大きさの飲み屋で、貸し店舗があるじゃないか、あれは全部の内装を済ませて、それからたちまち必要な機材も設置した上で貸し出すと、そういうシステムがあると聞くが・・・」
本田は、単純に質問する。
「あるある、グラスのひとつまで揃えてあるし、仕入先の酒屋もなんだか家主の指定らしい。そうねえ、家賃もひっくるめて結局ここと同じくらい毎月掛かるだろうよ」
「・・ってことは、全部ひっくるめて25万円くらいか?」
素人の本田は、再度確認した。
「そう、そんなもんだろう・・・」
「・・・」
「いや、それぞれの店舗の広さも違うし、大小さまざまだ。25万の貸し店舗は、ここの半分くらいだ。だから、これと同じ大きさのものを探すのは難しいし、あったとしても、とてもとても、25万じゃ収まらんと思うよ・・・」
本田は、なんとなく納得している。
「ま、俺が知るところによると、山根が自分でがんばっていた頃は、良い時は200万を楽に越えていた、と聞く。マアマア普通の月でも、120万位の売り上げは軽い、当たり前だ!と言っていたよ」
「・・・ム、」
(あの山根ができるなら、今から俺もできるだろう)
譲治の話を聞きながら、本田は思った。が、口には出さなかった。
「だからな、兄貴。まあ、よく聞いてくれ。ま、ある程度順調にいけばだけどな、むしろ25万円で、まるまるレンタルのバーを借りて開業するよりはだな、この際この店の営業権を買ったと思ってだな、しかも利息の付かない1千200万円。これを今から10年かけてだな、ボツボツ払って行ってよ、ジワジワと、自分のものになるんだぜ。はやっている店なら営業権が高くつくよ。俺達で、むしろ高く営業権を設定できるんだから、それでも他人が認めるんだから、そうなるとありがたいよ」
「・・・」
二人の夢が、ドンドン大きく膨らんでいる。べつに酒を呑みながらの会話でもないのに、互いの近未来の話そのものに酔いが回っていた。
「営業権の価値はすごい。だから、場合によっては、そう、頃合見計らって誰かに後引き継いでやってもらってもいいし、その時は店やりたい奴にそこそこの金額で営業権を売り付ければいいじゃないか・・・」
あいかわらず饒舌な弟の話を片方の耳で聞きながら、本田は自分自身の計算を始めていた。
<9回目掲載に続く-(3月8日水曜日)投稿予定>
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しかし今、こうして店の中に入り、別の何かを感じた。
(・・・第7回掲載より・・・)
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1)第1回掲載(2月9日)
2)第2回掲載(2月10日)
3)第3回掲載「1章」(2月15日)
4)第4回掲載(2月17日)
5)第5回掲載(2月22日)
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7)第7回掲載「2章」(安易な決断-2)(3月1日)
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2章
1(安易な決断)
(1) -3
水商売の店は、
まず、夜のとばりが開き、
ネオン街の全てのネオンが燦燦ときらめき、
そのネオンのもと、綺麗どころの女性が闊歩し、
アルコールで上機嫌になった酔っぱらいが景気よく騒ぎ、屯(たむろ)し、
そんな周囲外部の環境を知りつつ、目的の店に入れば、
馴染みのマスターが、いつもと変わらない立ち居振る舞いで訪問客を迎え入れる、
いつもどおりに迎え入れられ、外部の喧騒から離れ救われ、
ようやく目的の店の「止まり木」に鎮座する。
その、いつものその空間で、
まずは一口、アルコールが入る、
最初の一口は、次を誘う。
アルコールの誘惑に駆られ、さらに、
さらに飲むほどに、酔うほどに、
アルコールの隠し持つ、
危険にして侮れない魔力が、身体中に芽生える…
こんな魔力に牽引されつつ、
もって、不用意に、
身体(からだ)全体に集積されてしまった昼間の鬱積(うっせき)から、少しずつ開放されはじめる…
おおむね『のみ助』という人種は、大なり小なり上述の感覚を求め、夜の街を徘徊するのである。
本田は思い出した・・・
客がしばらく足を踏み入れていない店、その店周りを伺いながら、本田は想っていた。
(今まで自分のたどってきた夜の巷の只中にいる自分の姿が、ここにあるか・・・)
閉店してしまった水商売の店は、冴えない。つまり、店の持つ水商売の生気を完全に揮発させ、蒸発させてしまうに十分な歳月である。この店は、今年に入りまもなく閉店した。閉店の後すでに半年以上も経過している。
(夜の店が閉店すると、その店が腐る!)
不思議なもので、客の出入りが止まった店は逆に、夜の業界の裏側の哀れさを漂わす。
しかし、なぜか、そういう状況とは違った独特な雰囲気が漂っていた。
(なんだか、思い出した・・・)
本田は、よく飲み歩いていた頃、羽振りのよかったサラリーマン現役時代の姿を思い浮かべていた。
条件をチェックする前に、本田はすでに決めていた。
(最低でも、今から5年間が勝負だ、できる!俺なら、できる!)
弟の譲治からこの話が持ち上がったあの夜、すでに本田の心は動いていた。
(今すぐに、喉から手が出そうだ。今の俺には、うってつけの話である、とにかく日銭(ひぜに)が欲しい。もうこの事務所は立ち行かない。だから飲み屋の店をやってもいい。そう、この店であれば、俺の手でやってみたい・・・)
(2)
閉店したまま半年間、当時のままになっている店舗の様子を、自分の目で確かめにいったのは、その翌日である。
店舗経営の話でにわかに盛り上がっていた本田の気分は、あらためて冷静になっていた。下見に行ったその夜、再び弟の譲治と会い、あらためて打ち合わせした。
三日後、つまり今週中に契約書を取り交わせなければならないが、まだ数日の猶予がある。契約の当事者となる本田には、まだこの時点で断ることも可能なのだ。
互いにもう一度、このバー開業の話を整理してみた。
まず、借財の問題について、
先の経営者・山根が負っている借財は、1千200万円。このまま山根が刑務所に入ったままであれば、その支払い責任は譲治が負い、代わりに支払わねばならなくなる。
これを、毎月10万円の返済でいけば、10年で返済完了。つまり借金は10年かけて支払う計算になる。
家賃は月間15万円、家主に納めていた。
毎月25万円ですでに6ヶ月間にわたって滞納。
家主と山根潔の関係は、そっくりそのまま家主と本田譲治の関係である。
25万円の支払い義務の半年間滞納は、現時点ですでに150万円に膨れ上がっている計算となる。
この時点での肝心な問題は、この半年間の滞納部分の支払い責任が発生しており、その責任がすでに本田譲治に発生していた。本田幸一には、それに気付いていなかった。
家主と本田譲治の間に、本田幸一の知らない了解事項が交わされていた。
その了解事項をかいつまんで整理すれば、次のようになる。
まず、譲治は、山根潔の後継者となって店の経営に名乗りを上げる誰かを見つけてくる。そうすればその名乗りを上げた誰かに、その借金を背負わせてしまい、店を継続させる。そうすることにより当面は、譲治が負うべき責任は免れ、その代わり店の運営をする誰かが、責任を毎月実行し続ける。しかし譲治は継続して、そのあらたな誰かの保証人になる。こんな話がすでに背景にあった。
本田幸一は、すでにその標的であり、今、それを引き受けようとしていたのである。
本田自身、自分の状況を整理した。
(なんだか、これではピエロじゃないか。もう、自分はわかっている・・・)
さらに、疑い深く考えれば、
(1200万円の根拠も、定かでない。もっと内容を調べれば、もっと安くできる可能性無きにしも非(あらず)!かもしれない、しかし、なんだか逆に面倒が起きそうだ。ここは弟が絡んでいる)
弟が関係していることが、さらに本田の思考回路を鈍らせた。
(とにかくここは、受けて立つことにすればいい・・・)
だから、
(自分にかかわりのない負債1200万円は、自分が無利息で借り入れた資金と思い込み、そう、勘違いし、それを全ての開業経費である。と、考えれば、話は違ってくる・・・)
一刻も早く、いや、あえて言い替えれば、本田は明日からでも店の売り上げが発生しさえすれば、それでいい。現金収入が欲しく、本田はあらためて自分を修正し、飲み屋経営を引き受ける姿勢で耳を傾けようとし、譲治をまとめ役と考えるよう、自らの思考回路を無理やり再修正しようとした。
「毎月25万円の家賃だと思えばいいじゃないか!」
「な~に、兄貴、ちょっと考え方を替えれば、それで問題は解決したも同じだよ」
「な、兄貴さん。物の価値がぐんぐん上がる今どきの事ですよ。新規に店を出そうと思ったら、たいへんだ。そうだよね。それと比べれば、これは安いものよ。内装に約5百万か、いや8百万はいるはずだ。決して安くないよ。俺の友達に聞いたから、よくわかる。それに加えてだな、厨房機材も馬鹿にならんよ」
「でも今の製氷機は十分使えるし、もちろんクーラーは付いているし。いやエアコンだぜ、今付いているやつは。つまり冬は暖房に使えるしろものだからな。いやいや捨てたもんじゃないぜ、あのカウンターの椅子も、使える。いまからあらためて買えば、これ、けっこう高いよ。センスいいぜ、あの椅子は籐でできているじゃないか・・・」
なんだかもっともな話をする譲治。
「ウム、あれはどうなってるんだ。あの、ビル全体が飲食店で、さらに同じ大きさの飲み屋で、貸し店舗があるじゃないか、あれは全部の内装を済ませて、それからたちまち必要な機材も設置した上で貸し出すと、そういうシステムがあると聞くが・・・」
本田は、単純に質問する。
「あるある、グラスのひとつまで揃えてあるし、仕入先の酒屋もなんだか家主の指定らしい。そうねえ、家賃もひっくるめて結局ここと同じくらい毎月掛かるだろうよ」
「・・ってことは、全部ひっくるめて25万円くらいか?」
素人の本田は、再度確認した。
「そう、そんなもんだろう・・・」
「・・・」
「いや、それぞれの店舗の広さも違うし、大小さまざまだ。25万の貸し店舗は、ここの半分くらいだ。だから、これと同じ大きさのものを探すのは難しいし、あったとしても、とてもとても、25万じゃ収まらんと思うよ・・・」
本田は、なんとなく納得している。
「ま、俺が知るところによると、山根が自分でがんばっていた頃は、良い時は200万を楽に越えていた、と聞く。マアマア普通の月でも、120万位の売り上げは軽い、当たり前だ!と言っていたよ」
「・・・ム、」
(あの山根ができるなら、今から俺もできるだろう)
譲治の話を聞きながら、本田は思った。が、口には出さなかった。
「だからな、兄貴。まあ、よく聞いてくれ。ま、ある程度順調にいけばだけどな、むしろ25万円で、まるまるレンタルのバーを借りて開業するよりはだな、この際この店の営業権を買ったと思ってだな、しかも利息の付かない1千200万円。これを今から10年かけてだな、ボツボツ払って行ってよ、ジワジワと、自分のものになるんだぜ。はやっている店なら営業権が高くつくよ。俺達で、むしろ高く営業権を設定できるんだから、それでも他人が認めるんだから、そうなるとありがたいよ」
「・・・」
二人の夢が、ドンドン大きく膨らんでいる。べつに酒を呑みながらの会話でもないのに、互いの近未来の話そのものに酔いが回っていた。
「営業権の価値はすごい。だから、場合によっては、そう、頃合見計らって誰かに後引き継いでやってもらってもいいし、その時は店やりたい奴にそこそこの金額で営業権を売り付ければいいじゃないか・・・」
あいかわらず饒舌な弟の話を片方の耳で聞きながら、本田は自分自身の計算を始めていた。
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