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小説「フォワイエ・ポウ」(掲載9回)<安易な決断・続編>

2006-03-08 01:25:05 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
 当事者の兄弟二人の夢が、ドンドン大きく膨らんでいる。べつに酒を呑みながらの会話でもないのに、互いの近未来の話そのものに酔いが回っていた。「営業権の価値はすごい。だから、場合によっては、そう、頃合見計らって誰かに後引き継いでやってもらってもいいし、その時は店やりたい奴にそこそこの金額で営業権を売り付ければいいじゃないか・・・」あいかわらず饒舌な弟の話を方耳で聞きながら、本田は自分自身の計算を始めていた。
 <以上、第8回掲載の終節より・・>

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掲載済みの小説「フォワイエ・ポウ」は、下記から入れます。

1)第1回掲載「第1章」(メタリックレッドのロールスロイス)(2月9日)
2)第2回掲載(2月10日)
3)第3回掲載「1章」(クリームチーズ・クラッカー)(2月15日)
4)第4回掲載(2月17日)
5)第5回掲載:「1章」完(2月22日)
6)第6回掲載「2章」(安易な決断-1)(2月24日)
7)第7回掲載「2章」(安易な決断-2)(3月1日)
8)第8回連載「2章」(安易な決断-3)(3月3日)

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『フォワイエ・ポウ』 著:ジョージ青木

2章

1(安易な決断)

(1)-4


子供にもわかるような常識的なことであるが、ものの計算をするには、まず、算術ないし算数の基礎を知らなければ、計算はできない。
しかし今、取り組もうとしている計算は、
飲み屋の経営が成り立つかどうか?
赤字を出さずにやっていけるかどうか?
利益が出て、儲かるかどうか?
そんな計算である。
つまり経営の基礎計算をやっているわけで、いわば『飲み屋の経営学』そのものの実践演習であるから、他人ではなく本田が自分の手で店に立って経営した場合にどうなるか? そんな演算をしなければならない。
数千年も前から、世界中、それぞれ共通な計算尺度が存在している。例えば万国共通の世は、長さはメートル法で重さはグラム単位か。インチやフィートなどは米英流。ごく最近までの日本流は、尺貫法。
商売といえば、物々交換の世の中から流通をスムーズにする為に通貨が発明された。経済は発展し、国際取引の時代となった今は国際取引が常識になった。しかし、それぞれの国の通貨があり、そのつど逐一、異なる通貨の換算をやらねば、公平な商取引は成立しない。
ドルとポンドにフランやマルク、、。
ドルといっても、米ドルもあれば香港ドルにカナダやオーストラリアにもドルがある。こんな通貨を異にする取引の場合、日々変動する交換レートがり、異なる通貨を換算率に於いて取引する。
当面、本田が取り組もうとしている水商売には関係なく、日本国内で商売をする場合、ほとんどは日本円で計算する。
本田の頭の中はめまぐるしく、過去の海外旅行業の時代が走馬灯のように点滅していた。こんな時、本田の頭が勝手に海外旅行のビジネス計算を始めている。
海外旅行ビジネスの末端の実体験と経験が、めぐりめぐって水商売になってくる。まるで、過去を思い浮かべながら、且つ現在と未来を想像しながら、ようやく現時点の問題に帰ってきた。
わずか数分間だった。時間はまことに短時間であったが、想像と空想の間を往来した時間は、現時点を中心にし、前後十数年の時空を堂々巡りしていた。
過去から未来、未来から現在を通過して過去に、行き交う内にタイミングが合致し、ようやく現時点に帰り着いた。帰り着いて、再び思った。
(今から水商売か!今までやっていた海外旅行の収支計算より簡単ではないか!)
このとき、すでに本田は、水商売の仕事を子馬鹿にしてかかっていた。
この際、当然ながら日本円で貸借対照表なり損益計算書なりを背景に、経営の見通しを立てようと模索している。誰もが同じ手法を用いている。
(基本的な経理処理か、、、)
(そう、自分も今まで経験してきたのだ。だから水商売なんて、もっともっと簡単だぜ・・・)
しかしなぜか、このたびの飲み屋の経営計画に用いる尺度は、あくまでも本田自分自身の尺度であった。
普通の算用数字を用い、大げさに言えば会計学基礎理論に則った手法手段を用いていた。
(入らねばならない入り口は、どこにあるか?入るべきかどうか?)
しばらく迷ったが、入ってしまえば一目散に出口に出ている。あっけなく計画は立案できた。
計画を立てるためにこねくり回した計算は、結果として単純な手法であった。その内容は、いたるところ「守りに弱い」すきだらけの収支目標結果ができていた。旅行屋を中退した、いなかのイベント屋が安易に夢想した超理想的計画のシナリオができてしまった。
経営者として最も大切な事が、欠如していた。
それは何か。
経営を始める時点で、すでに1千200万円もの大きな借財を背負い込んだという事実である。これを、毎月10万円の支払いで、10年間も続けて支払わなければならないという現実が残った。借財10万円の毎月支払いは、家賃の15万円と合算すれば25万円。
つまり本田は、
(丸々25万円が、一つ気分の家賃と自分で勘違いして、そしてスタートしよう!)
と、あえて自らが勘違いし、そしてそう思い込もうと自己暗示にかけた。

たちまち1週間も経たないうちに、店舗の賃貸契約書が出来上がった。
甲は、家主。
家主は、本田が賃貸契約をした三階の店舗の一つ上の全フロアー、つまり四階を全部店舗として使っている居酒屋のオーナー、川下新吉氏。
乙は、本田幸一。
甲である家主に対し、店舗借り入れ家賃として、毎月15万円。さらに借入金の分割支払い相当分、10万円。合計25万円を支払わなければならない。
丙は本田譲治であり、乙の保証人である。
おおむね右(上)の内容の文言が、契約書に書きしるされている。
当事者全員は、契約書に署名捺印をした。
いよいよ、矢は放たれた・・・
(おお、なんだか今までよりもずいぶんと簡単だ。これで望んでいた日銭が入る。だから、毎月25万円なんて、簡単に支払えるぜ・・・)
本田は、燃えていた。
(あ~、どうやらこれで見通しができた。そうそう、気楽にやって、毎日毎日入ってくる「日銭」を稼いで、そして毎月いくら残るか?それが楽しみだ・・・)
右肩上がりで作成された経営計画の通り、本田の気分は十分に右肩上がりであった。

時代は、いよいよ昭和から平成に移り変わろうとしていた。
そんな頃、本田は初めて、「夜の業界」に参入しよう。と、していた。

<・・続く・・(3月10日投稿予定)>

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<掲載画像:Photo by G.A. "Traditional English Pub" in Scotland, on Sep. 1999.>