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連載小説『フォワイエ・ポウ』(16回)3章-3(夜業界の女から見た本田は?)

2006-03-31 15:21:25 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
    
      長編小説「フォワイエ・ポウ」3章

                   著:ジョージ青木

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(3)-1

フォワイエ・ポウを出た2人の女性は、そんなに急ぐわけでもなく、普通の速度で店に向かっていた。
並木通りからサンチョパンザまで、つまり2人の勤務先まで角々を曲がりながらの夜の街を歩くこと、約10数分の距離である。タクシーに乗るほどでもないが、歩けばけっして近くはない。それなりの距離であるから、徒歩なら程よい運動にもなる。連れでもいれば、ある程度のまとまった会話もできる。適度にワインが入った2人には、少しでもアルコールを発散させるに程よい歩行距離であった。
今まではほとんど口をきかなかった山本美智子が、本田の店を出るなり、急におしゃべりになった。
「何だか不思議な人だなあ~」
「なに一人で言ってんのよ、みちこさん・・・」
「ねえねえ、さかえさん。本田さんって、どういう人?」
「みちこさん、あなた、そんな馬鹿なこと聞くんじゃないよ。たった今、本田さんと会ったばかりじゃないの。『一度会ってみたい、だから連れて行って欲しい』そう言ったのはあなたじゃない。だから今日、一緒に連れて行ってあげたじゃない」
「・・・」
「もう自分で本田さん見たのだから、わかったでしょう。そうよ、30分以上も本田さんの店にいて、もう、わかるでしょう。あれが、本田さんよ!」
「本田さんと、初めてお会いした。でも、問題はそれからなのよ。確かに、お会いしました。ご挨拶も、しました。だから、もっとわからなくなったの。いろいろ想像してたけど、会ってしまったら、何が何だか、さっぱり解らなくなっちゃったの~」
「よくわかってるじゃない、美智子さんは・・・」
「エ~、さかえさん、今、わたし、わからないっていいましたよ。なのに、どうしてよくわかってるっていうんですか?」
「ねえ、美智子さん・・・」
「美智子さんが『よく分からない』って言う事が、これでようやく自分で確かめて、自分で分かった。そうでしょう。だから、『良く分からない、という事が分かった!』のだから、それで良いじゃない・・・」
こうして自分で説明しながら歩いている木村栄は、今、自分の言っている事があらためてよく理解できた。木村の説明を聞いている山本美智子には、その説明を聞けば聞くほど、ますます理解できなかった。
山本美智子は敢えて、木村栄に答えを出した。
「さかえさん、わかりました」
「わからない事がわかったので、今度、わたし1人で、フォワイエ・ポウに行ってきます。そういうことですよね…よくわかりました。さかえさん、ありがとう・・・」
「そう、そうすればいい、そうして何度も店に行ってごらんなさい、でも、おおよそ解かるまで、まだこの先3年はかかるから・・・」

山本美智子の話し相手をしながら、一緒に歩きながら、全く別の世界を考え想いに耽っている自分、そんな木村栄は、本田の店で飲んだワインのほろ酔い気分から、とっくに抜け出していた。
自分の過去を思い浮かべながら、本田の店の成り行きについて想像していた。

今年で23歳になる木村栄。この業界に入って、既に2年と半年になる。
中学時代からいっぱしの不良少女を演じ、さらに高校時代には、女暴走族の親玉までに登りつめた経験がある。16歳で二輪免許の取得、18歳になると同時にトラック免許と自動二輪の免許を取った。車もバイクも大好きだった。この道では、そんじょそこらの男の暴走族にはけっして負けない。そんな腕と度胸をもっていた木村栄は、そのうち取巻き連中も集まり、いっぱしの女任侠道を極めた女傑になっていた。
木村栄の実家の両親は、市内で普通の商売を営んでいる。しかも小売酒屋。気風の良い父親は取引先に恵まれ、商売は順調。結構儲かっていた。1人娘で甘やかされたのがまずかった、と、自分では思っている。たちまち金銭の必要性があるわけではないのだが、なぜか、今は真面目に夜の世界で働いている。超一流ではないが、とりあえずクラブと名の付く店のホステスだから、それなりの所得を得ている。はっきり言って、ルックスは美人の範疇に入る。が、しかし、もともと大柄で、さらに年齢の割には少し太めである。加えて男まさりの気まま娘とくれば、お客の要望にはなかなか妥協もできず、元来、お世辞やおべっかが使えるようなタイプの女ではない。だから、ゆめゆめ店のナンバーワンには成れない。が、しかし、そんな変わり者好みのお客がついているので、クラブ経営者にとっては、彼女のわがままな態度も、ある程度認めざるを得ないという、ぎりぎり合格ラインに乗っている、決してクビにする必要のない従業員であるか…木村栄は、そんな存在であった。
元々本気で夜の商売に向くとも思っていないし、今も、本気で仕事に取り組んではいない。
(高校を卒業してから、もう2年も経つ。遊び歩きながら、時々実家の仕事を手伝っている。毎日毎日同じように過ぎていくばかりで面白くも可笑しくもない。家の手伝い。お酒の配達。これの単純な繰り返しの毎日。これではいけない。もう大人になったのだから、家から外に出て何か別の、自分が選んだ仕事をしなければ、、、。でも、今さら、まともなOLにはなれないだろう。なぜかって?分かりきったこと。学校には、まともに出ていない、通っていない、勉強していないから、どこか会社の試験を受けても見事に落ちるであろう。普通の会社には入れてもらえないだろう。親のコネでどこかの会社に入れば入れてもらえないでもない。その場合、まず、親に恥をかかせることになる。会社に入ったら、その日から自分が恥をかくだけだ。一般常識のない自分の化けの皮は、すぐに剥げる。無学の馬鹿さ加減はすぐバレる。だから普通のOLには、なりたくてもなれない・・・)
という気分で、なんとなくなんとなく、夜の業界に足を踏み入れた木村栄であった。

本田との出会いは、本田が木村の勤めるサンチョパンザに客として出向いたときである。取引先に誘われた本田は、わずか2~3度だけ木村の勤めるクラブに出向いていた。店にいるときの本田は、ほとんど女性ホステスとの会話は無かった。そのかわりに、店の経営者である寺元マスターと会話を楽しんでいた。そんな会話の最中も、なぜか木村栄が本田の席についていた。本田自身、さしたる理由は全くなく、むしろ本田を店に誘った取引先連中の誰かが、いつも木村栄を指名していたに違いない。
たまに本田が来店すると、なぜか木村栄は喜んだ。席に付くと、なぜか元気が出た。そんな本田が、サンチョパンザに全く姿を現さなくなってすでに2年経っていた。本田は自営業をはじめたらしい、という情報が入った。なぜか、気になっていた。

それから突然、ニュースが入ったのは、一週間前の事。
(本田さんが、夜の業界に入るらしい。バーを経営するらしい・・)

   <・・続く・・>

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* 発表済み「小説・フォワイエ・ポウ」、掲載各号一覧・・

「第1章」
1)第1回掲載「第1章」(メタリックレッドのロールスロイス)(2月9日)
2)第2回掲載(2月10日)
3)第3回掲載「1章」(クリームチーズ・クラッカー)(2月15日)
4)第4回掲載(2月17日)
5)第5回掲載:「1章」完(2月22日)

「第2章」
6)第6回掲載「2章」(安易な決断-1)(2月24日)
7)第7回掲載「2章」(安易な決断-2)(3月1日)
8)第8回連載「2章」(安易な決断-3)(3月3日)
9)第9回掲載「2章」(安易な決断-4)(3月8日)
10)第10回掲載「2章」(安易な決断-5)最終章(3月10日)

「第3章」
11) 第11回掲載「3章」(1開店)(3月15日)
12)第12回掲載「3章」開店(1-2)(3月17日)
13)第13回掲載「3章」開店(1-3)(3月24日)
14)第14回掲載「3章」開店(1-4)
15)第15回掲載「3章」開店(1-5)

<掲載写真>バルセロナにて、1998年初夏