目から鱗 日本人の給料が安すぎる本当の理由 雇用ジャーナリスト海老原嗣生 No.185
日本におけるリスキリングと雇用の動態
はじめに
近年、急速に変化する雇用市場において「リスキリング(再スキル習得)」が注目されています。リスキリングとは、競争力を維持するために新しいスキルを学んだり既存のスキルを向上させたりするプロセスを指します。本章では、雇用ジャーナリストの深田氏と大正大学の上原教授の対談を基に、日本の労働市場におけるリスキリングの現状と課題を考察します。
リスキリングの概念
- 定義と重要性: キャリアの進展や異業種への転職を目的に、新しいスキルを学ぶことがリスキリングの核心です。
- 現在の動向: メディアでリスキリングの必要性が頻繁に取り上げられる一方で、実際の普及は限定的です。
- 日本における課題: 高所得者層は特に転職の障壁が高く、リスキリングの普及に懐疑的な声も聞かれます。
国際的な比較: ヨーロッパとアメリカ
- 継続学習モデル: ドイツやフランスでは、特に製造業を中心に、継続教育の枠組みが整備されていますが、低所得者層の支援には十分対応していません。
- 高所得者層の課題: ヨーロッパやアメリカでは、産業間の転職を支援するプログラムが少なく、経験豊富なプロフェッショナルが新しい機会を見つけにくい状況があります。
- 歴史的背景: 日本は過去の経済不況で労働者の再配置に成功した経験がありますが、それと同じ戦略を今日に適用するのは難しいとされています。
雇用移行の仕組み
- 成長産業: 新しい産業は、隣接する分野から人材を引き付ける傾向がありますが、全く異なる業界からの転職には課題があります。
- 期待と現実のギャップ: 研修で提供されるスキルと新興産業が求めるスキルが一致せず、特に低所得層から高所得層への移行が難しいと指摘されています。
給与構造の比較分析
- 給与停滞: ヨーロッパでは、キャリアを通じて給与の増加がほとんど見られないという停滞が問題視されています。
- 日本の特徴: 日本では、キャリア初期に大幅な給与増加が見られる一方、その後は停滞するという独特の給与構造が見られます。
労働組合の役割
- 組合構造: ヨーロッパでは産業全体を対象とした労働組合が賃金引き上げを実現しやすいのに対し、日本では企業別の組合が主流であり、交渉力が限定的です。
- 賃金への影響: 日本の組合が産業横断的に連携できないことが、賃金の伸び悩みの一因となっています。
日本の雇用の未来
- 最低賃金の動向: 最低賃金の大幅な引き上げが議論されており、これは雇用市場に大きな影響を与える可能性があります。
- 労働力不足への対応: 労働力不足が深刻化する中で、企業は低賃金維持よりも優秀な人材確保を優先する方向に進む可能性があります。
結論
深田氏と上原教授の対談を通じ、日本の雇用動態におけるリスキリングの複雑さが浮き彫りになりました。時代遅れの期待や非効率な教育政策、硬直した労働構造が、リスキリングを困難にしています。最低賃金の引き上げが議論される中で、日本が労働市場の変化に対応するためには、労働政策の改革やリスキリング文化の醸成が必要です。これらの議論は、単なる経済指標を超え、社会全体の価値観や働き方の進化にも深く関わっています。
重要なポイント
- リスキリングの必要性: 雇用市場の変化に適応するためには不可欠だが、日本では課題が多い。
- 国際比較: 高所得者層の転職支援や労働市場の対応において、日本は他国と異なる特徴を持つ。
- 賃金停滞と組合の影響: 賃金や労働条件の改善には労働組合の役割が重要だが、日本では限界がある。
- 未来への視点: 最低賃金の引き上げや労働市場の変化に柔軟に対応することが求められる。
日本におけるリスキリングと雇用の動態