休みの日にお客さんから紹介された温泉に行くことにした。
カッパさんも一緒だ。
紅葉の時期なので紅葉狩りも兼ねることにした。
そこはT市。
けっこう自然が多い。
さぞかし紅葉がきれいだろう、と思いきやそうでもなかった。
ところどころ茶色い葉がくすんだ緑に交じっているぐらい。
中には調和を乱す鮮やかな赤い紅葉もある。
カッパさんはそれをみて感動していた。
「うわーーきれいやなーー」
テンションの低い私に、
「きれいやと思わやん?」と聞いてきた。
「うん、きれいやね」
「きれいやろーー」
「うん、きれいやね」
こんなやりとりをしばらく続けたが、
ついに私は
「全然っきれくなんかねーよ!京都や箕面の方が数十倍きれいやわ!!」
と叫んでやった。
それを聞いたカッパさんは案の定、機嫌が悪くなった。
しかしそれもつかの間。
「熊、注意」の看板を見た途端、機嫌の悪さは吹っ飛んだらしい。
もうびびりまくり、私の足音にすら飛び上がる始末。
「ええかフクちゃん、僕は熊見たら逃げるからな」
「うん、はなから期待してへんし」
熊に遭遇したら、逃げるカッパさんの方に熊が注意を向けるのではないか、
と私は密かにほくそ笑んだ。
1時間ほど散策すると、さすがにお腹が減った。
いよいよ温泉だ。
私は山の中の秘湯を想像していたのだが
予想に反して俗っぽい建物の温泉だった。
規模の小さいスーパー銭湯のようだ。
しかし、温泉自体はとてもいい感じだった。
ヌルヌルした泉質で体に良さそうだ。
何より野天風呂があり、広い。
私は日陰を求めて湯船を進むと、大きな段差があり、
危く溺れかけてしまった。
私の暴れように場内が騒然とした。
ま、問題ない。
夕方になると、人がほとんどはけてしまった。
温泉は申し分ないのに、なぜか寛げない。
さっきの事件は関係ない。
他の風呂なら、リラックスできるのに、
何だろう・・・神経がピリピリしている感じだ。
待ちあいで5分ほど待っていると、
茹で上がったカッパさんが出てきた。
すっかり満足そうだ。
「いい湯だったな」とさすがのアスピーも角がとれている。
人には合わない土地がある。
何となく・・・何となくだけど、
ここは私には合わない気がした。
なんて言ったらいいかな、
アウェイな感じがつきまとうのだ。
そんな風に思っていると、カッパさんが
「いい温泉やったけど、次来ることはないな」
と、つぶやいた。
カッパさんは自分に合った温泉は、
多少遠くても浸かりに行ったりするので、
カッパさんもここは合わないと本能で感じ取ったのかも知れない。
いい温泉だったけど、残念である。