竹心の魚族に乾杯

Have you ever seen mythos?
登場する団体名、河川名は実在のものとは一切関係ございません。

天然物=健康体、放流物=メタボ?

2009年01月23日 22時21分21秒 | やまめ研究所
先日、ハゼ釣り関連の記事で、放流物のヤマメは活かしビクに入れておくとすぐに死んでしまう、天然物はしばらくの間生きている、ということを書きました。

これはまったく不思議な現象です。

放流物と天然物、まあ、解禁前に撒く“成魚”は別として、稚魚の段階で放流された魚は外見的にはそれほど差がありません。これは12~15cmになったものを秋口に放流しているようで、ヒレも筋肉も見事に再生していて、まあその点では確かにヒレピン。
生息しているポイントもほぼ同じですし、放流物は太っていると言っても、天然でも栄養状態が良ければそれくらい太っている個体もいます。

天然物と放流物で外見的に大きな違いはない――いやむしろ、どちらかというと天然物の方がきゃしゃで、放流もののほうが逞しい体付きをしています――それでも、どういうわけか天然物の方がタフ。
ではどうして、放流物と天然物で身体能力的に明らかな差が生まれるんでしょうか?


その理由は、例の「ミトコンドリア」の違いにあるんではないか??


といっても、もともとは同じ遺伝子を持った魚ですし、駅伝の選手みたいに生まれつきミトコンドリアのタイプが違うということじゃないです。

何らかの理由でミトコンドリアの性能が高まると、それにつれて身体能力が飛躍的に向上するのではないか。これは全くの推測なんですけど


養魚場の魚は、早く大きくしよう、早く大きくしよう、ってことで、絶えず“多めに”餌を与えられています。ということは、基礎代謝に必要なカロリーは、昼も夜も雨の日も晴れの日も、常に足りている状態です。しかも、自分から動いて餌を摂らなくても、待っていれば上から餌は降ってくるし、水面に浮かんでいた餌もやがて目の前に沈んでくる。まさに至れり尽くせり状態。

魚としては、自分の体温を維持するだけのカロリーが足りなくなることもなければ、動き回って息が苦しくなるという経験もしないわけです。

ミトコンドリアというのは言うなれば細胞の中の巨大な化学プラントで、その中には多種多彩な回路が働いています。そうした回路というか部品の一つ一つはタンパク質でできていて、それらが“酵素”と呼ばれているものです。タンパク質ですから古くなると消化されてしまいます。まるでヘンゼルとグレーテルのお菓子の家みたいですね!

で、回路がなくなってしまうと困るので、また必要な回路が新たに作られます。

一方で、設計図はあるけれど、まだ1回も作られていない回路もあるでしょう。そのなかには、空腹・酸欠状態になって初めて作られるような回路だってあるんじゃないでしょうか。

魚は生まれてすぐの状態だと、お腹が膨れていますが、ようするに母体から受け継いだ形で、必要な栄養はすでに自分の体の中に持っているわけで、そうなると必要最小限の酸化回路だけ動いていればいいことになります。で、これがデフォルト状態。
そしてこれに魚の成育と周囲の環境に応じて、徐々に回路の種類と量が増えていくんじゃないでしょうか。


魚にかぎらず生き物って、DNAに書かれた通りに体が組み立てられていくように思ってしまいますけど、成体として完成しても、細胞の中のミトコンドリアっていうのは、もともと別な生物だったわけで、そういう意味ではもうどうにもならないというか、そんなの知ったこっちゃないって感じで、勝手に生きてるんじゃないでしょうかね~。

こっちが一生懸命エクササイズに汗を流していても、ミトコンドリアはカウチでくつろぎながらポテトチップをかじり、まったりとDVDでも観ているのかもしれません(笑)


とまあ、こんなふうに考えてみると、天然物と放流物での生命力の差、病気に対する抵抗力の差というものが、案外うまく説明がつくみたいです。


秋口に「シラメ」といって、下流に下っていく一群がありますが、水面上をふわふわ飛んでいる虫に強い反応を示します。たぶん稚魚期の脳の発達段階に応じて、動くものに興味を示しているのだと思います。ですからシラメにならないで渓流域に残った若い一群も、やっぱり同じようにユスリカの成虫などの羽のある虫を追っていると思われます。

そして、そのようにして効率的に餌を捕食できるということを学習すると、その餌ばかり食べるようになります。春以降は一気に川虫類が増えますし、冬~春にかけてはカジカの卵がたくさんありますからわりと餌が豊富です。
けれども秋~冬にかけては渓流域にそのようなコンビニエントな餌はありません。餌が乏しいから必然的にユスリカ類が餌になります。ユスリカというのは常に飛んでいますから、ヤマメの方でも活発に動いてアタックしなければなりません。他の餌のように待ち構えて楽に捕食することができないわけです。

これは水中で自分の姿勢を常にコントロールしながら、間合いを測って動いている相手に飛びつくという、かなり高度な仕事です。空対空の銃撃訓練をする戦闘機のパイロットに相当するでしょう!

で、しかも1個1個の餌が小さいですから、当然何度も何度もアタックしなければなりません。これはかなりの重労働です。


天然のヤマメ達は、このような時期を通過することで運動神経や脳の発達が促進され、また、空腹状態で積極的に動き回ることを強いられますから、ミトコンドリアの方も鍛えられるということになるんじゃないでしょうか?

卵から孵化したヤマメは、ちょうど小猫が動くものに興味を示して、活発に遊び回って運動神経が発達してくるのと同じように、水面近くでふわふわ飛ぶユスリカや小さな虫を追い掛け回すことで脳が発達して賢くなっていく、そしてまた、ミトコンドリアの中の眠っていた調節遺伝子が発現してきて、空腹状態にも耐えられるようになっていく…というふうに考えることはできないでしょうか?

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