chuo1976

心のたねを言の葉として

樹の伝記 長田弘

2015-06-10 05:04:11 | 文学

樹の伝記        長田 弘

 

  この場所で生まれた。この場所で

 そだった。この場所でじぶんで

 まっすぐ立つことを覚えた。

 空が言った。――わたしは

 いつもきみの頭のすぐ上にいる。――

 最初に日光を集めることを覚えた。

 次に雨を集めることも覚えた。

 それから風に聴くことを学んだ。

 夜は北斗七星に方角を学び、

 闇のなかを走る小動物たちの

 微かな足音に耳をすました。

 そして年月の数え方を学んだ。

 ずっと遠くを見ることを学んだ。

 大きくなって、大きくなるとは

 大きな影をつくることだと知った。

 雲が言った。――わたしは

 いつもきみの心を横切ってゆく。――

 うつくしさがすべてではなかった。

 むなしさを知り、いとおしむことを

 覚え、老いてゆくことを学んだ。

 老いるとは受け容れることである。

 あたたかなものはあたたかいと言え。

 空は青いと言え。

 

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札幌国際芸術祭

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