私と印鑑 古川時夫
ケースから取り出したこの印鑑は
私とすでに半世紀のつきあい
ハンセン病を発病した時
家族に及ぼす病気ゆえの影響を考えて
自分から分籍を行なった
その際使用した印鑑なのだ
再び用いることもないと思っていたのに
母親の死亡により印鑑証明がほしいと兄より電話があった
母親の死は三ヵ月前だという
ために私の印鑑が登記に必要━━ただそれのみなのだ
言いようのない寂しさが体の中を吹き抜けていった
印鑑は
私の手のひらの上で沈黙していた
ケースから取り出したこの印鑑は
私とすでに半世紀のつきあい
ハンセン病を発病した時
家族に及ぼす病気ゆえの影響を考えて
自分から分籍を行なった
その際使用した印鑑なのだ
再び用いることもないと思っていたのに
母親の死亡により印鑑証明がほしいと兄より電話があった
母親の死は三ヵ月前だという
ために私の印鑑が登記に必要━━ただそれのみなのだ
言いようのない寂しさが体の中を吹き抜けていった
印鑑は
私の手のひらの上で沈黙していた