私の指と眼 香山末子
わたしには カセットのふたを開けて
テープを入れる指がない。
ずうとずうと以前
わたしも指を持っていたのに、
四、五年前から、
指がなくなった。
外科にみんなあずけてある
眼も二十五年前
手術でとって
先生にあずけてある。
わたしが死んで
小さな箱に納まるその日
先生が
「香山さん、眼をかえすよ、
なんでもいっぱい見ることだ・・・」と言い
外科の看護婦さんは
「香山さん、指を返します
どうぞ何んでも自由にお使いなさいね・・・」
そういってくれるかな?
そういってくれるのを
わたしは
胸の中でしきりに願っている