冬木立日のあるうちに別れけり
清水基吉
父上様母上様 三日とろろ美味しうございました。干し柿 もちも美味しうございました。
敏雄兄姉上様 おすし美味しうございました。
勝美兄姉上様 ブドウ酒 リンゴ美味しうございました。
巌兄姉上様 しそめし 南ばんづけ美味しうございました。
喜久造兄姉上様 ブドウ液 養命酒美味しうございました。又いつも洗濯ありがとうございました。
幸造兄姉上様 往復車に便乗さして戴き有難とうございました。モンゴいか美味しうございました。
正男兄姉上様お気を煩わして大変申し訳ありませんでした。
幸雄君、秀雄君、幹雄君、敏子ちゃん、ひで子ちゃん、
良介君、敬久君、みよ子ちゃん、ゆき江ちゃん、
光江ちゃん、彰君、芳幸君、恵子ちゃん、
幸栄君、裕ちゃん、キーちゃん、正嗣君、
立派な人になってください。
父上様母上様 幸吉は、もうすっかり疲れ切ってしまって走れません。
何卒 お許し下さい。
気が休まる事なく御苦労、御心配をお掛け致し申し訳ありません。
幸吉は父母上様の側で暮しとうございました。
CⅩⅩⅩⅩⅣ「大いなる幻影」1999 『エイガニッキ』 SASHI-ハラダ 2025/1/7
東京の路地、階段上の部屋、若いチンピ
ラたちが、部屋の中を物色している、物音の響き、部屋から運び出したボックス金
庫、階段から落下、カメラは見上げていたが、パンダウンして、階段下に落下した金
庫、そして路地、冴えない夜のネオンの下、若者たちが降り立って、運んで、壁にご
みを投げつけて、取り散らかして、暴れて、金庫を開けて、札束を奪う、そんな中に
主人公のアップ、表情、この物取りの中に、初めから居たのだろうか、通りかかって
彼らと出くわしたのか、カフェバー、行ったり来たりの娘、カウンター奥の酒瓶た
ち、客ともスタッフも、ぶらぶら歩く者たち、主人公は部屋に、窓辺のソファ、座り
込む、が、その座っている主人公が、画面から、消えて、同じソファ捕えた固定
ショットの中、人物は刈が、ゆっくり消えていく、そもそもの初めから、主人公は亡
霊では無かったか、だから、あの若者たちの中に居たのも、紛れ込んだのも、亡霊の
紛れ込み、主人公の消えた部屋、郵便局、客、受付の娘たち、出される封書たち、ス
タンプを押す娘たち、運ばれる荷、ボックスの中に、仕事が終わったか、娘は荷の中
の封書を取りだして、部屋に、主人公の居た部屋、消えた部屋、屋上、物干し、持ち
帰った封書を開けて、草花の赤い実、ギターの録音の娘、教師役の青年、一節録音が
終わると、他の楽器に、ピアノ、戻った主人公、テープを取りだして聞く主人公、窓
辺の主人公、座っている、だが、果たして、いるのだろうか、既に死しているのか、
亡霊か、判らない、娘との関係は、二人は、ともに、部屋の中に在ることを分ってい
るのか、テントのないトラックの荷台に佇む娘、他の人々も、トラックでの通勤、こ
れはごみの、埋め立てから、町に向かうトラックか、どうやら会社に向かっているの
だから、出勤風景、ならば、住んでいるのは、主人公も娘も、戻ってきた屋敷は、ご
み捨て場の近隣、ごみ捨て場の中の幻想の屋敷の中、娘の居る部屋、窓からマンショ
ンが、警報が鳴り響く、廊下を男と女が、逃れ、追いかけ、またの日にも、二人の
追っかけ、見つめる娘、その見つめる娘を見る逃れる娘、階段下に、そして、娘の住
まう部屋に、慌てて、ドアをロックする娘、だが、逃れてきた娘の執拗なノック、開
けて中に入れてしまう、男もまた、追いかけてきて、部屋の中、困惑の娘、男は娘を
抱いて外に、戻っていく、警報の鳴響く中、この二人もまた幽霊ではないか、あのト
ラックの通勤者たちも、デモテープを聞かせる主人公、聞き入る、プロデューサーだ
ろうか、友人だろうか、ミュージシャンだろうか、始まりのカフェでの二人、二人は
語らい外に、どぶ川の向かいで、若者たちが屯している、また、犯罪か、盗人か、主
人公は一人別れて去っていく、残った相棒の、プロデューサーだろうか、金属バット
を手に、若者たちは、こちらに向かって進み來る、向かい行く男、怒りの、苛立ちの
若者たち、主人公と男と若者たち、握手する四人、和解したのか、車を走らせる主人
公、古いお屋敷の前、車を止めて、何やら盗み出して、遁走、相変わらずの、盗み稼
業、主人公と若者たちの関係は、だが、これまでの若者と同じグループかどうか、デ
モテープの男との関係は、果たして、主人公の仕事は、郵便局の娘、封書の振り分
け、部屋、だが、マンションの見える部屋と、始まりのソファの部屋は、同じなのだ
ろうか、荷物が片づけられて、襖を黄色と青で塗る二人、黄色の中の丸い白、張り紙
がしてあったか、丸く白く切り取られて、横の襖は青く塗られて、あの青は、郵便局
で働く娘のチョッキの青、娘と主人公、草原、土手上の高層ビル、土手下から、見上
げるカメラ、横移動、部屋の中のサッカーの試合、その応援のドラムの響き、反復さ
れる音たち、寝ている主人公、の後ろの画面、競技場でのドラムのバンド、響き渡る
同じ音、座って試合を見ている娘、部屋の二人、恋人通し、兄弟、夫婦、娘の持って
帰る封書たち、何かの目論見が有るのだろうか、何所か組織からの知らせか、二人の
役割は、娘は部屋に張られた地図をはがし、日本列島のない、地図に、描く日本、娘
は二人で一緒に行こうと、誘う、トランクを持ち、運び、外に、上空を舞う飛行機、
飛行場に向かうか、その最中に、太鼓の響き、応援の人々、巡って、娘を撮り込み、
一方には、黒づくめの若者たちの集団、通りを横に広がって、太鼓の行進を止めよう
と、彼らの面前で止まる楽隊、下がり去っていく、楽隊の者たち、娘は一人、取り残
されて、そこに取り囲みの黒づくめの男たち、男たちになぐられ、倒されて、倒れて
画面から消えて、だが、男たちは執拗に、殴りつける、盗人仲間の、仕業、デモテー
プの男と主人公、男は去っていく、後を追い、殴り倒す主人公、これら、若者たち、
男との、関係は、仲間なのか、敵なのか、仕業ごとに、倒れた娘を探し出し抱きしめ
る、死したか、いや、初めから死していたのでは、娘は目を開ける、幽霊だから、抱
きとめる主人公、郵便局の娘、働く娘、そこに黒づくめの男たち、若者たち、脚立で
カウンター内に入り込み、駆け込み、襲撃、だが、壁際に倒れ、座り込み、マスクを
外してしまって、顔を晒した主人公、見つめる娘、互いに、判っていたか、偶然の再
会か、壁際の主人公を捕えるカメラ、また消える主人公、壁が残されて、そんな主人
公を見つめていた娘、全ては、こんな主人公を幻想として見ていた娘、己の死もま
た、散々なるリンチも、娘の幻想、いや、主人公の幻想、そして、二人は郵便局の外
の階段に座りこむ、行き場のない、宛のない、希望のない、二人、これが恋、死した
二人の恋、死している恋、そんな二人の姿を幻視する私、監督、こんな私たちは、映
画に見返されていないか、あなたも、また幻だよと、現実も、映画も、まぼろし、
ま、ぼ、ろ、し、大いなる幻、