恐竜絶滅、火山噴火がお膳立て、新たな研究でも
火山噴火の気候変動後に、小惑星の衝突がとどめの一撃か
恐竜が絶滅した原因は? 科学界には、謎の多い疑問がいくつかあり、それらは大きな論争を巻き起こしている。現在、ほとんどの教科書や教師が教えてくれるところによると、約6600万年前、ユカタン半島の近くに巨大な小惑星が落下し、地球上に生息していた種の4分の3とともに、鳥類として生き残ることのできなかった非鳥類型恐竜が姿を消した。(参考記事:「小惑星衝突「恐竜絶滅の日」に何が起きたのか」)
しかし、学術誌「Geology」に発表された最新の研究によれば、小惑星が衝突する前に、現在のインドで発生した激しい火山活動により、いくつかの種が絶滅していた可能性があるという。
この研究結果は、火山の噴火と小惑星の衝突がワンツーパンチになったという主張を後押しするものだ。火山の噴火が最初の一撃となり、気候変動が起きたところで、小惑星の衝突というとどめの一撃がティラノサウルスや白亜紀後期の仲間たちにもたらされたのではないかという説だ。(参考記事:「恐竜絶滅、火山と隕石の複合原因?」)
アジア内陸では隕石衝突の前に多く絶滅
これまで、この大量絶滅に関する地質学的な証拠のほとんどは海の記録で、北米大陸で得られたものだった。だが、中国、北京にある中国地質大学のライミン・チャン氏率いるチームは中国北部の内陸部に目を向けた。しかも、チャン氏らによれば、中国北部は小惑星が衝突したメキシコのクレーターからも、当時大噴火したインドにある古代の溶岩流デカン・トラップからも遠く、2つの出来事が広い範囲にわたる気候にどんな影響を与えたかを調べるのに絶好の場所だという。(参考記事:「恐竜絶滅の決定打はインドの隕石?」)
チャン氏らは、ある古代の湖底の堆積物を分析し、小惑星衝突の数十万年前、一帯の温度が上昇し始めていたことを突き止めた。この温暖化はインドのデカン・トラップで噴火が起きた時期と一致する。つまり、小惑星が衝突した時期よりずいぶん前に、膨大な量の二酸化炭素が放出された可能性が高いということだ(小惑星の衝突が大量絶滅を引き起こしたのは、広範囲に大きな影響を及ぼす場所に落ちたためだと示唆する研究結果も発表されている)。(参考記事:「恐竜絶滅、小惑星の落ちた場所が悪かったせい?」)
小惑星が衝突する前の温度変化に関するデータは世界中に存在するが、チャン氏らはさらに驚くべきことを発見している。古代の堆積物に含まれていた化石の多くが、このときの温暖化と同時期に姿を消していたのだ。この地域での絶滅の3分の2が、火山の噴火後、小惑星が衝突する前に起きていた。
研究に参加した英リーズ大学の古生物学者ポール・ウィグナル氏によれば、今回の研究結果は、火山の噴火が気候を不安定化し、世界的な大惨事の下地になったことを証明しているという。
「私たちの論文によって、振り子は火山噴火説の方向に少し傾きました
米カリフォルニア大学バークレー校の地質年代学者ポール・レニ氏は、今回の研究には参加していない第三者の立場から、温暖化が非鳥類型恐竜の絶滅を早めたのは間違いないと話す。気温上昇の直後に突然寒くなるという急激な変化が、地球規模の大惨事をお膳立てした可能性が高いためだ。(参考記事:「三畳紀末の大量絶滅、原因は溶岩の噴出」)
極地の方へ移動することで、温暖化に何とか適応した生物がいたとしたらどうだろう。「もしその直後、急激に寒冷化したら、適応するのは難しいでしょう。寒冷化のスピードが速ければなおさらです」(参考記事:「恐竜絶滅期、淡水種の多くは生き延びた」)
筋書きは次の通りだ。火山の噴火によって世界が大混乱に陥り、多くの種が絶滅。気温上昇があまりに急激だったため、絶滅を免れた種も小惑星の衝突という第2の衝撃から身を守ることができなかった。
「恐竜は本当に不運でした」とウィグナル氏は話す。
しかし、米テキサス大学オースティン校の地球物理学者ショーン・ギューリック氏は納得していない。ギューリック氏はメキシコで、クレーターの中心を掘削するプロジェクトを率いたばかりだ。ギューリック氏は、小惑星が衝突するまで、生態系はほぼ無傷だったと示唆する複数の研究結果を引き合いに出している。(参考記事:「恐竜の絶滅、カギは小惑星の衝突時期」)
ギューリック氏はチャン氏らの研究について、デカン・トラップでの噴火が大量絶滅初期の生態系の変化に関連しているという主張を認めている。ただし、中国以外の場所でも同じことが起きたという証拠を見たいと述べている。
「1つの湖盆での出来事を地球規模の現象と同列に論じることはできません」米パデュー大学の地球物理学者で、掘削プロジェクトの初期の結果をまとめているジェイ・メロシュ氏によれば、近々発表する論文では、小惑星が1度衝突しただけで大量絶滅が起きたと強く主張する可能性があるという。今後も、6600万年前の地球を激動させた出来事に負けないほどの勢いで、激しい論争はまだまだ続く。