ひじきに不可欠な調理法の工夫 がんにならない食生活
鉄分や食物繊維に富む海藻「ひじき」。そのひじきについて2004年、イギリス食品規格庁(FSA)は「発がんリスクがあり食べるべきではない」との勧告を出しました。根拠は、「ひじきには無機ヒ素が多く含まれていることが分かった」という、同庁が実施した調査報告です。
たしかにヒ素には、人体への毒性があります。ただ、地域差はあるものの、ヒ素は水や土壌、魚介類などの食べものに含まれており、日常気付かないうちに体内に取り込んでいます。
ヒ素にはヒ素単体とヒ素化合物の2種類があり、ヒ素化合物には炭素を含む有機ヒ素と、炭素を含まない無機ヒ素があります。この中で最も毒性の高いのが無機ヒ素です。
無機ヒ素を短期間で大量摂取すると、発熱や下痢、嘔吐などの症状が出ます。またヒ素に汚染された井戸水を飲用する海外の地域住民や、仕事などで高濃度のヒ素に曝露した人に肺、膀胱、皮膚がんのリスクが高いことも分かっています。
私たちがふだん口にする海藻の中で無機ヒ素を多く含むのはひじきで、他の海藻に含まれるのは有機ヒ素です。FSAの勧告も、あながち否定できないと思えるかもしれません。
私たちも無機ヒ素を含む食品(ひじき以外もあるが、日本人はひじきからの摂取量が突出している)の摂取量と発がんの関連を多目的コホート研究で調べました。1995年と1998年に行ったアンケート調査に回答した全国10の保健所管内に住む45~74歳の男女約9万人について、2008年まで追跡調査しました。
すると約11年の調査期間中に男性約4300人、女性約2700人が、何らかのがんにかかりました。
無機ヒ素の摂取量と発がんリスクの関連を見ると、喫煙習慣のある男性で、無機ヒ素を多く摂取したグループは、そうでないグループと比較して、有意差を持って肺がんになる率が高いことが分かりました。喫煙習慣のない男性にはこうした差はありませんでした。
明確な理由は分かっていません。しかし、喫煙者が無機ヒ素を摂取すると、ヒ素の代謝に関係する「グルタチオン」という抗酸化物質が肺で消失するという報告があり、喫煙者は無機ヒ素の毒性を受けやすいのではないかと考えることができます。
一方、女性は男性ほど顕著な差は見られませんでした。これは、女性ホルモンが何らかの介在をしている可能性が考えられますが、詳しいことは今後の研究を待つしかありません。その他のがんとは関連はありませんでした。
2013年に食品安全委員会は、食品中のヒ素が日本人の健康に与える影響を評価しました。現状に問題はなく、特段の措置は必要ないが、一部の集団で無機ヒ素の摂取量が多い可能性があることから、特定の食品に偏らないようにすべきと勧告しています。
ただ、そうは言っても多少の不安は残るでしょう。そこでお勧めしたいのが、調理法の工夫。とにかく水洗いが大事です。乾燥ひじきは水で戻すことでヒ素の大半を排出することができます。調理の際、十分に水に浸し、さらに水で洗い流すことで、無機ヒ素の摂取量を大幅に下げられるのです。
繰り返しますが、ひじきは鉄分やミネラルの貴重な摂取源です。「食べない」のではなく、調理法の工夫で安全性を高めてほどほどの量を食べるように心がけて下さい。