風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

『殯の森』

2007-05-30 02:19:01 | 映画



「こうせなあかんってことは、ないからね」
(『殯の森』)

カンヌ受賞早々BSで観られるとは、嬉しいかぎり。
カンヌ受賞作は私にとってアタリハズレが大きいのですが、これはアタリだった。
森の描かれ方がすごく良かったです。
私がよく散策する鎌倉の山は、何百年も前の遺構がさらっと転がっていたり、古い人骨が大量に発見されたりする、そんな場所。
でもたとえそういう遺構がなくても、そのような古くからある森には、都会の新しい森にはない独特の「何か」が確かにあるように感じる。
樹々のなかを黙々と歩いていると、ふと誰かに見られているような、遠い昔の人々の呼吸と自分の呼吸が重なったような、そんな気分になるときがある。
タイムスリップというよりは、ふとこちらと彼岸とがつながってしまったような、そんな感じ。
こういう場所では、死んだ人と会えても不思議じゃないような気がしてくる。
森は何十年何百年もの間そこで呼吸をし、あらゆるものを養分として、生きている。
だからだろうか。
森とは、私にとってそういう場所。
そんな空気がとてもよく表現されている映画でした。
河瀬さんってこういう作品を作る人なのかぁ。
『萌の朱雀』も観てみようかな。


『Before Sunset』

2007-05-27 12:19:27 | 映画



「僕は歳をとるの好きだな。今という時間をより大切に過ごせる」

・・・・・・

「人って自分だけが辛いと思い込んでる。記事を読んだ時は羨ましかった。奥さん、子供、作家の肩書き。でも私生活は私より悲惨」
「僕が惨めでほっとした?」
「ええ、気が楽になった」
「よかったよ」
「―――幸せを祈ってるわ。自分はいい人間関係が築けなくても、他人の孤独は望んでいない」

・・・・・・

「傷つくことを恐れちゃだめだよ」

(『
Before Sunset』より)


前作から9年後の2人。
実際に撮影されたのも9年後。
2人の容貌、会話、空気のすべてから9年という年月がすごくリアルに感じられて、切ない。。。
前作同様に解釈は観客に委ねるラスト。私は、9年たってもやっぱり互いが一番としか思えなかったのなら、もうあなた達は結婚するしかないでしょう、と思うわけです。
たとえそうすることで奥さんや恋人を傷つけることになるとしても。
そして実際に付き合うことで互いに傷つくことになったとしても。
今また別れたら、結果的にみんなが不幸になると思う。


『Before Sunrise ~恋人までの距離~』

2007-05-26 00:06:42 | 映画



「以前働いた時に雇い主が言ったわ。仕事のためにだけ生きてきたけど、52歳で気がついた。自分は誰にも何も与えずむなしい人生だと・・・。涙が光ってたわ。もし神が存在するなら人の心の中じゃない。人と人との間のわずかな空間にいる。この世に魔法があるなら、それは人が理解し合おうとする力のこと。たとえ理解できなくても、かまわないの。相手を思う心が大切」

・・・・・・

「女房が自宅で産むのを手伝った友人がいる。いよいよ誕生の瞬間、赤ん坊が現れ命の喜びをみなぎらせ、最初の呼吸をした。それを見ながら、彼は”この子もいつか死ぬ”と思った。人はいつか死ぬ。そうなんだ。物事には終わりがある。だから時や瞬間が貴重なんだと思わないかい?」
「そうね。今夜の私たちのよう」

・・・・・・

「多くの人々と美しい瞬間を共にしてきたわ。旅や、徹夜して夜明けを迎えたり・・・。すばらしい思い出よ。でも何かが違ってた。相手が悪かったの。私が思うことや感じることを理解してくれなかった。あなたといると幸せ。私の今までの人生で今夜ほど大切な夜はなかったわ」

・・・・・・

「どんなカップルも一緒にいると数年で互いの反応が予測できるから憎しみあったり飽きてくるなんて・・・。私はそうならないわ。相手を知れば知るほどその人が好きになる。どう髪を分けるのか、どのシャツを着るのか、どんな時にどんな話をするのか・・・すべて知るのが本当の愛よ」

(『
Before Sunrise ~恋人までの距離~』より)


主人公2人がとにかく話す話す話す、笑。
会話と空気と時間の使い方が素敵でした。

Before Sunset


『かもめ食堂』

2007-05-11 02:06:25 | 映画



ミドリ「どうしてこちらで?」
サチエ「いや、何が何でも日本でやる必要はないかなって思って」

・・・・・・

ミドリ「シャイだけど優しくていつものーんびりリラックスして。それが私のフィンランド人のイメージでした。でもやっぱり、悲しい人は悲しいんですね...」
サチエ「そりゃあそうですよ。どこにいたって悲しい人は悲しいし、寂しい人は寂しいんじゃないですか?」
ミドリ「世界の終わりのときは絶対に招待してくださいね」
サチエ「今から予約いれておきます」

・・・・・・

サチエ「ずっと同じではいられないものですよね。人はみんな変わっていくものですから」
ミドリ「いい感じに変わっていくといいですね」
サチエ「大丈夫!たぶん」

(『かもめ食堂
』)


原作は未読ですが、大好きだったドラマ『すいか』と同じ俳優陣だったので観てみました。
わぉ。雰囲気も『すいか』と似てる。うれしい~。
この独特のマイペースで繊細な空気が、すきなんですよ~。

「何が何でも日本でやる必要はないかなって思って」フィンランドで食堂を開いたサチエ。言葉に出さないところに大切なものを持ってるような女性なのでこの理由も真実かどうかはわかりませんが、こういうのいいなぁって思う。
海外へ出れば何かが変わるんじゃないか、という理由で海外へ出る人は多い。それはそれでいいと思う。よく「海外へ出たからといって自分の人生を変えられると思ったら大間違い。自分が変わらなければ何も変わらない」と安易に海外へいく人達に対して批判的な意見を言う人もいるけれど、私はそんなことはないと思う。
今までどっぷり浸っていた文化から抜け出してみて刺激を受けることは、自分を成長させたい、変わりたいって思ってる人にとってとても良いきっかけになるだろう。
でももうちょっと力を抜いて、サチエのように「日本にいても海外にいても同じ。それなら海外でもいいのではないかな」という感じもすごくいい。どこに行ったって同じ地球、同じ人間。それなら、確かにずっと死ぬまで日本にいる必要もないんだよね。

一方、ミドリがフィンランドへ来た理由は、目を瞑って地球議を指さし、たまたまさした国だったから。「来てやらないわけにはいかなかった」のだという。

そして、マサコ。父親のオムツを替えているときにテレビでフィンランドのエアギター選手権を見て、「こういうくだらないことに夢中になれる国っていいなぁ」と思い、両親が亡くなったのを機に旅行に来た。
けれど、航空会社の手違いでトランクが行方不明になってしまう。
サチエが「大事な荷物が早く届くといいですね!」と言うと、はたと「....大事なもの。何か入っていたかしら...」と呟くマサコ。なかなか届かない荷物を待ちつつ、彼女はのんびりしたフィンランドの空気を吸い込みに森へいきキノコ狩りをするのだけれど、「どこかでキノコを落としてしまった」という。その後トランクが見つかり、そろそろ日本へ帰る時期なのかとかもめ食堂で挨拶をしホテルへ戻った彼女がトランクを開けてみると、そこには落としたはずのキノコがぎっしりつまってる。
航空会社への電話で、「私の荷物、ちょっと違うみたいなんです。確かに私の荷物には間違いないみたいなんですけど、なんだか、違うんです」と言うときの嬉しそうな笑顔がいい。

3人とも、日本で重い荷物を背負って生きてきた。
サチエは両親とも亡くしているし、マサコは20年間介護をした両親を亡くしたばかり。ミドリも、詳しくは語らないけれどサチエとの会話中に突然泣き出してしまうところをみると、辛い思い出があるのでしょう。

それでもサチエは言う。
「大丈夫!たぶん」って。
たぶんっていうのが、いいんだよねー。
ここにサチエの人生の重みを感じます。
大丈夫!って言い切られるよりも、大丈夫な気になるからフシギ。

オススメの映画です。


『プリシラ』

2007-05-10 01:09:55 | 映画

 

Aren't we fabulous?
あたしたちは最高!
(『プリシラ』)


生きてると辛くて過酷なことが山ほどあるけれど、それでも世界は決して彼らを拒んでばかりじゃない。
道は自分で切り拓け。
どんな生き方だろうと、人からどんな風に見られようと、他人に迷惑さえかけなければ、自分の人生を楽しんだ者勝ち!
そんな風に思える映画。

特筆すべきは、映像の美しさと音楽の素晴らしさ。
真っ暗な砂漠の真ん中で焚き火を前に躍り、そして夜が明けていくシーンは最も好きなシーン。

ゲイか否かに関係なく、人として生きていくうえで大切なものをおしえてくれる作品です。