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風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

「龍村平蔵 『時』を織る。」展 @横浜高島屋ギャラリー

2013-06-02 00:50:15 | 美術展、文学展etc




温故知新を織る――


(初代龍村平蔵)


突然ですが、質問です。
上の3つの写真、皆さまには何に見えますか?

絵、切子硝子、陶器、に見えるのではないでしょうか。
でも。
実はこれ、すべて「織物」なのです。

友人から「着物に興味がなくても絶対に行くべき!」と勧められ、土曜の午後、横浜高島屋ギャラリーで開催中の「龍村平蔵 『時』を織る。」展に行ってまいりました。
京都・西陣織の老舗である龍村美術織物の創業120年を記念した展覧会で、創業者・初代龍村平蔵から4代までの代表作約300点が並びます。
この初代龍村平蔵という方については私は全く存じ上げていなかったのですが、「龍村美術織物」というのは最近ものすご~~~く聞き覚えのある名前。
それもそのはず。
歌舞伎座で幕間のたびに紹介されている、この緞帳↓を製作した織物メーカーさんなのでした。




それにしましても、「織物」からこれほどの感動をもらえるとは、正直予想外でした。
これまで海外も含めどんなに素敵なタペストリーを観ても「美しい絵を布にしたもの」という印象しかなかったのですが、龍村の織物は、その元となった作品とは全く別物の一つの芸術の域に達しています。
「織物」であるからこそ達しえた、「織物」でなければ達しえなかった域。
経糸と緯糸のみで織りなされるその無限の世界に、ただただ圧倒されるばかりでした。

そして、「古きを知ってこそ、新しいものを生み出せる」。
古代裂(ぎれ)の復元に心血を注いだ初代龍村平蔵のその精神に、歌舞伎という伝統文化の魅力にどっぷりと嵌ってしまっている私は、共感せずにはいられません。

この展覧会の迫力ばかりは、どんなにネットや本で見ても伝わるものではありません。
デザインの魅力を最大限に引き出している、それぞれの糸の質感。文様の立体感。光と見る角度によって魔法のように変わる色合い――。
ぜひぜひ会場に足を運んで、実物をご覧になってください。
そしてこの世界のあらゆる美が華麗に織り込まれた芸術の極みを、たっぷりとご堪能あれ。

6月4日まで。

※上の写真の3つの織物は、左から順に、「光悦夢蝶錦」(本阿弥光悦の作品がモチーフ)、「ぎやまん錦」(江戸末期の薩摩切子がモチーフ。四代平蔵の代表作)、「白象陶彩文」(18世紀後半の南蛮趣味の壺がモチーフ)です。


  





  


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ラファエロ展 @国立西洋美術館

2013-04-24 12:33:06 | 美術展、文学展etc


『大公の聖母』 1505-06年

先週金曜日の夜は仕事帰りに友人と待ち合わせ、国立西洋美術館で開催中のラファエロ展に行ってまいりました。
夜とはいえ、思いのほか空いていてびっくり。
目玉の「大公の聖母」だけでなく全ての作品を、目の前で心ゆくまで見ることができました。
一つ一つの絵を通して、その絵を描いた画家とたっぷりと時間をかけて対話できることは、その画家の絵が好きな者にとってはこの上ない至福です。
しかも今回の企画展は、ラファエロ作品だけで23点。
日本でこれだけのラファエロを一度に見ることができるなんて、信じられません。

しかし、ラファエロはいいねぇ。
彼の絵に流れる優しく静かな時間に、胸の中のあらゆる負の感情がふうわりと消えていくような気がします。
ヨーロッパを旅しているともう美術の教科書に出てくる絵のオンパレードで、気力&体力が追いつかずにぐったりとしてしまうのですが、そんなとき、ラファエロの絵にほっと癒されたものでした。
この「大公の聖母」を所有していたフェルディナンド3世は、この絵を寝室に飾り、旅行中は携帯していたそうです。
わかるなぁ、その気持ち。
黒の背景は後世に塗りつぶされたもので、制作当初は窓や建物などの背景が描かれていたことが近年のX線による調査で判明し、そのX線写真も展示されていて興味深かったです。

こちら↓は、なんと17~8歳の頃の作品ですよ。緑色の羽が素敵。


『天使の断片』 1501年

「大公の聖母」や「聖母子と聖ヨハネ」の素描もよかった。
素描って、
油絵よりも身近にその画家の体温を感じられる気がして、なんか好きです。
16世紀のイタリアで、ラファエロはどんな状況でこれを描いたのだろうか?と想像するだけで楽しくなる。
ちなみにラファエロが亡くなったのは、37歳のとき。
私ももうすぐ37。
同じ37年の人生で、こうも成し遂げたものの大きさが違うものか。。。。。


美術館を出ると、前庭に置かれたロダンの彫刻「地獄の門」がライトアップされていました。
イタリアの詩人ダンテの叙事詩『神曲』に登場する地獄への入口の門です。
目をとめない方も多いですが、これも正真正銘の本物ですよ(“オリジナルな鋳造”と言った方が正しいかもしれませんが)。
素晴らしい作品なので、国立西洋美術館にお立ち寄りの際はぜひ足をとめてみてくださいね。
特に夜に見る地獄の門は格別です。

そうそう、この西洋美術館、9月にはなんとミケランジェロ展も開催しちゃいますよ。
東京都美術館では昨日からレオナルド・ダ・ヴィンチ展が始まりましたし、今年の上野はルネサンス祭りですね。一体どうしちゃったの?!って感じです。
500年の時を超えたルネサンス(←この言葉だけでワクワクする)の美の世界へ、皆さまもぜひ♪

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生活と芸術―アーツ&クラフツ展 @東京都美術館 

2009-04-04 01:14:37 | 美術展、文学展etc




役に立たないもの、美しいと思わないものを家に置いてはならない。

Have nothing in your house that you do not know to be useful, or believe to be beautiful.

(ウィリアム・モリス)


こんばんは。
生きるのってこんなにこんなに大変だったっけ?と改めて思い出してしまったcookieです。
できれば一生思い出したくなかった。。


さて。
友達からチケットをもらったので、上野の東京都美術館で開催中の「生活と芸術 アーツ&クラフツ展」へ行ってまいりました。
ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館との共同企画です。

実は私、ウィリアム・モリスのデザインはあんまり好みじゃないのです。
なのでイギリスでもリバティプリント物は一つも買いませんでしたし、ウィリアム・モリスの家も訪ねませんでした。
今日の企画展で、私の隣に親子連れがいまして、その娘さんがぽそっと一言。
「詰まってる……」
そう、私が好きじゃない理由がまさにそれ(笑)
「間」がないんですね。
間が好きな典型的日本人の私には、モリスのデザインはちょっと息苦しく感じるのです。

でも、です。
行って良かった!
すっごい面白かったんですよ、この企画展。
「詰まってる」デザインは好きじゃないけれど、植物柄のスケッチのセンス良さとあの色づかいはもうさすがイギリス。ほんと好きだわ。。。
そしてなにより芸術と労働と生活は一つだとするアーツ&クラフツ運動の信念が素晴らしく格好いい。
産業革命を起こしたのもイギリスなら、その弊害(粗悪な品物の大量生産が伝統的な芸術を脅かすこと)にいち早く気付き、それに対抗し克服する運動を起こしたのもイギリス。
この国は保守的な面がある一方で、必ず革新的な面が生まれてくるところが本当に面白い。

そしてこのアーツ&クラフツ運動がヨーロッパへ、果ては日本までどうやって広がっていったかが流れを追って紹介してあったのも、わかりやすくてよかったです。

あと、ロセッティのステンドグラスもよかった。まさかこの展覧会で見られると思わなかったので嬉しかったな。ロセッティは在英中にテートブリテンでベアタ・ベアトリクスを見られなかったのがとても悲しかった思い出があるのです(イタリアへ貸し出されてた)。

ケルムスコット・マナーや三国荘の再現も見ごたえがありました。

V&Aはロンドンにいた頃よく通った美術館だったので懐しくて、それだけでも十分満足でした(時々お茶したカフェの内装デザインも今回展示されていました)。

とはいえ、ウィリアム・モリスやフィリップ・ウェッブの作品に散々感心したにもかかわらず、最も印象に残ったのが木喰明満の地蔵菩薩像や、アイヌや琉球の染物、そしてなにより出口直前の最後に展示されていた棟方志功の二菩薩釈迦十大弟子だったあたり、やはり私は日本美術が好きなのかもしれない(^_^;)

上の写真は、上野公園。
お花見客でいっぱいでした。
ソメイヨシノ、今が満開ですね^^

そうそう。上野へ行ったのは一年半ぶりくらいだったのだけれど、国立西洋美術館がユネスコの世界遺産に推薦されていると知り、へぇーと思いました。建築家が有名な人なんだそうですね。個人的には東京国立博物館の建築の方が好きなのですが、とにかく登録されれば歌舞伎座のように簡単には壊されないでしょうし、良いことです。

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「文豪・夏目漱石 ―そのこころとまなざし―」展 @江戸東京博物館

2007-10-18 01:04:30 | 美術展、文学展etc

江戸東京博物館で開催中の「文豪・夏目漱石」展に行ってきました。

大学予備門の試験の答案が、数学や物理などもすべて英語で答えているのにはびっくり。
でも考えてみれば適塾などでもすべて蘭語で勉強していたことを思えば、明治のこの頃も日本語で勉強するほどまでこの学問が日本に浸透していなかったのが理由なのでしょうね。
いずれにしても、感心しきり。

ロンドン留学中にお金をきりつめて購入したという洋書の数も圧巻でした。

また漱石は本の装丁にもこだわった人で、洋風のデザインを取り入れた装丁は本当に素敵!ミュージアムショップで『虞美人草』初版本のオレンジ色の装丁のブックカバーを売っていたので迷わず購入してしまいました。他に『四篇』『吾輩は猫である』のもあって、お金があれば全部買いたいところだったけど、なにせ高くて・・・。1800円、だったかな。

という風に見所満載な漱石展でしたが、とくに印象に残ったのが正岡子規と漱石の交流。
二人は高等中学校の同級生として出会い、その友情は子規が亡くなるまで13年間つづきました(漱石というペンネームも、元は子規が使っていた俳号)。
明治34年、病床の子規がロンドンにいる漱石へ送った最後の手紙が展示されていました。
子規が描いた東菊の絵とともに、掛け軸に貼られていました。
子規らしい手紙です。
結局二人は再会することなく、この手紙を書いた一年後の明治35年9月19日、子規は34歳でこの世を去りました。
以下、手紙の全文。


僕ハモーダメニナッテシマッタ、毎日訳モナク号泣シテ居ルヨウナ次第ダ、ソレダカラ新聞雑誌ヘモ少シモ書カヌ。手紙ハ一切廃止。ソレダカラ御無沙汰シテスマヌ。
今夜ハフト思イツイテ特別ニ手紙ヲカク。
イツカヨコシテクレタ君ノ手紙ハ非常ニ面白カッタ。近頃僕ヲ喜バセタ者ノ随一ダ。
僕ガ昔カラ西洋ヲ見タガッテ居タノハ君モ知ッテルダロー。
ソレガ病人ニナッテシマッタノダカラ残念デタマラナイノダガ、君ノ手紙ヲ見テ西洋ヘ往ッタヨウナ気ニナッテ愉快デタマラヌ。
モシ書ケルナラ僕ノ目ノ明イテル内ニ今一便ヨコシテクレヌカ(無理ナ注文ダガ)。

画ハガキモ慥ニ受ケ取ッタ。倫敦ノ焼芋ノ味ハドンナカ聞キタイ。

不折ハ今巴里ニ居テコーランノ処ヘ通ウテ居ルソウジャ。君ニ逢ウタラ鰹節一本贈ルナドトイウテ居タガモーソンナ者ハ食ウテシマッテアルマイ。

虚子ハ男子ヲ挙ゲタ。僕ガ年尾トツケテヤッタ。

錬卿死ニ非風死ニ皆僕ヨリ先ニ死ンデシマッタ。

僕ハトテモ君ニ再会スルコトハ出来ヌト思ウ。万一出来タトシテモソノ時ハ話モ出来ナクナッテルデアロー。実ハ僕ハ生キテイルノガ苦シイノダ。僕ノ日記ニハ「古白日来」ノ四字ガ特書シテアル処ガアル。

書キタイコトハ多イガ苦シイカラ許シテクレ玉エ。

明治三十四年十一月六日 燈下ニ書ス。
東京 子規拝
倫敦ニテ 漱石兄


(上)明治30年9月6日付書簡
(中)あづま菊の絵 明治33年6月頃
(下)明治34年11月6日付書簡
岩波書店蔵


※子規の最後の手紙について
夏目漱石 『吾輩は猫である』中篇自序

※東菊の掛け軸について
子規の手紙(→漱石) 明治32年3月20日

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