※2013年春猿さんのお蔦&月乃助さん
『婦系図』の早瀬主税は、歌舞伎俳優じゃないとできない役だろうと実感しました。ああいう演出に行き着くには、新派の先人たちの考えがあり、後に播磨屋(中村吉右衛門)さん、松嶋屋(片岡仁左衛門)さんなどの客演にも繋がっていったのだと思います。僕としては、もう一度『婦系図』の早瀬主税を演じたいという思いが、新派入団を後押しした大きなきっかけのひとつでした。
(二代目喜多村緑郎)
歌舞伎座の『一條大蔵譚』観劇後に、新橋演舞場へ。
歌舞伎座と新橋演舞場って、こんなに近かったのか!
この劇場はむかーし一度行って以来。記憶の中より小さくて、心地よいサイズでした。
夕食は、“演むすび弁当”。これ美味しい
本日は月乃助さん改め喜多村緑郎さんの襲名披露公演の千穐楽で、私にとっては初新派。
新派も大向うがかかるのね~。定式幕も使うのね~。思っていたよりずっと歌舞伎ぽいのだなあ
緑郎さん(早瀬)、よかった。特に前半はまんま早瀬で嬉しくなってしまった。松也(掏摸万吉)と二人の場面はなかなかに眼福でした。イキもぴったり合ってたし。松也をイイ男だと思ったことは実はないのですけど、この二人が並ぶとキレイ。松也はこういう感じの役が似合いますね。コクーンのお坊吉三を思い出しました。
しかしこの早瀬、後半の見顕し(というのか?)後の演技はちょいとばかし熱すぎやしないかい?それとも新派のキャラ設定がこうなのかな。私の早瀬のイメージは、もう少し淡々とした感じなのですけれど。そしてサラリと死んでくイメージ。
てか、、、
新派の早瀬って死なないのか オーマイガー。毒飲んで死ぬ緑郎さん、見たかったのに
河野家のお嬢さま達を次々と色仕掛けで落としていく場面もないのね(娘も一人だけになってる)・・・。緑郎さんで超見たかったのに しかしこれほどのスピード展開だと「菅子は俺と世帯を持ちたいってよ!」って早瀬が英臣に言い切るところ、観てる方は「え?そうだったの?」とならないだろうか。
河野家皆死に場面もないのね まぁこの舞台の流れでは、あそこでバタバタ人死にが出ては不自然すぎるか。
でもって一番のビックリは、なんと新派の早瀬はお蔦の臨終に間に合っている 遠く離れた所で死ぬ方がよいのになぁ・・・・あの蛍の効果も美しいのに・・・。お蔦を腕に抱いて「死ぬな、お蔦ーーー!!!」(だっけ?)で終わりって、なんだか・・・古クサイというか・・・。
でも新派の脚本って、鏡花も全力で容認してるのよね(湯島の境内だって自分でもノリノリで書き足してるし)。
鏡花がよいのならそれでよいです・・・。
いや、やっぱりよくないわ!鏡花の時代のお客さんにはお涙頂戴的ラブストーリーが受けたのかもしれないけれど、今の時代に上演するなら、原作のままのピカレスクロマン的ストーリーを前面に出した方が絶対にいいと思うの。もちろんちゃんと恋愛要素も(湯島も)歌舞伎らしさも新派らしさも残しつつ。せっかく緑郎さんの名跡も復活したことだし、ここで全く新たな脚本で上演、とか新派ルール的には難しいのかしら(新派は詳しくないのでよくわからない)。「初代緑郎版」も続けつつ、「二代目緑郎版」も上演してみるとか。歌舞伎のコクーンみたいに。
伝統芸能に手を加えるのは基本的に好まない派ですけど、せっかく原作が面白いのだから使ってほしい~。
久里子さんのお蔦。舞台は初めて拝見したのですが、想像以上に勘三郎さんに似てらして最初は戸惑ってしまいましたが、健気で可愛らしく、情に厚い感じがよかったです。早瀬への愛もしっかり伝わってきて。もう少しご年齢が若かったらもっとよかったけど(とはいえ70歳なのにお若い)、お蔦だ!って感じた。湿っぽい演技ではなかったのも好みでした。病んだ後のめの惣宅の場面は、水谷八重子さんの小芳と二人、(元)芸者らしい雰囲気が出ていて素敵だった。こういう味わいが出せる女優さんって、これから減っていってしまうのかなぁ、とか思いながら見てました。妙子役の春本由香さん(松也の妹さんなのね)とこのお二人の空気の違いが、対照的でとてもよかったです。
そういえば新派では小芳はここで「私の子供なのよ!」ってお蔦にカミングアウトするのね。ここもなぁ、原作のように最初からお蔦は心得ている設定の方が絶対にいいと思うのだけどなぁ。
久里子さんは、身体を病んだ後の演技が迫力でした。やつれて儚くて、本当に死んでしまいそうに見えた。
個人的に酒井先生役の柳田豊さんがいまひとつイメージと違っていたのが残念だったな。もうちょい、なんというのか、平然とお蔦に口移しで薬飲ます大人の男の余裕と色気みたいなものが欲しかったというか・・。てか、新派では薬は手から飲ませるだけなのよ。口移しに戸惑わない酒井先生、素敵なのに。
歌舞伎界からは他に、猿弥さん(河野英臣)と春猿さん(河野菅子)がご出演。澤瀉屋から緑郎さんへの襲名お祝いですね^^
カーテンコールは緑郎さん&春本さんのお二人で(新派はカテコOKなのね。それとも襲名公演の東京千穐楽だったから?)。緑郎さんは爽やか現代っ子に戻ってました笑。
緑郎さん、ぜひまた鏡花モノをやってくださいな 観に行きます。歌舞伎の方にもまたぜひ!
最後に、小説の方について自分用の整理。
酒井先生が早瀬とお蔦を別れさせたのは、芸者に対する世間の目の厳しさをよく知っていたからですよね。そういう時代なのだよね。だから実の子のように大事に育て上げた早瀬が芸者遊びを割り切れずに、落籍せてしまったのを知って先生激怒。お蔦のことも、大事な早瀬を誑かす悪女と思ってしまった。おそらく酒井は妙子を河野にやるつもりなど最初からなくて、できれば早瀬と添わせたかったのではないかなぁ。
誰だって脛に傷をもって生きている。なのに自分達だけは完璧だと思い、本人達が隠そうとしている他人の傷を暴こうとする人々。表面だけを見てその人を判断し、心を見ない人々。それが早瀬は許せなくて、だから暴き返した(先生は彼にそんなこと望んじゃいなかったろうけど)。その行動に正義などないことは承知の上で。
色々ツッコミどころ満載で極端な小説だけど(私もまだ理解しきれていない部分があると思うけど)、私は好きです。
ラスト21行はもちろんナシの方向で!
※『九月新派特別公演』市川月乃助改め、二代目喜多村緑郎襲名披露インタビュー
※劇団新派、復活への幕開き