風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

アンジェイ・ワイダ監督

2016-10-12 22:19:34 | 映画

9日に亡くなられたんですね。

といっても私は『カティンの森』しか観たことがないのですが、この作品、時々ふっと何気ないときに思い出すのです。
正確には作品というより、ラスト10分の森の湿った空気、土の匂い、そういったものがふっと蘇ってくるのです。
落ち着いたら、この監督の他の作品もぜひ観てみようと思います。
下に、鑑賞したときの記事を載せておきますね。

ポーランドといえば、来月はツィメルマンのコンサートに行ってきます。


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2010年5月 シネマジャック&ベティにて




「教えて、私はどこの国にいるの。ここはポーランド?」

(映画 『カティンの森』より)


友人に誘われて、観に行ってきました。
第二次世界大戦中、ポーランド人将校約1万5000人がソ連により虐殺された事件を描いた作品です。
先日ポーランドの大統領専用機がロシアのスモレンスク近郊で墜落しましたが、訪露の目的はこのカティンの森事件の追悼式典へ出席するためでした。

ポーランドは1939年9月1日西からドイツに、同17日東からソ連に侵略され、約1万5000人のポーランド人将校が捕虜としてソ連へ連行されたまま行方不明になります。
そして1943年6月、ドイツ占領下のカティンで彼ら数千人の遺体が発見され、事件が明らかになりました(カティンは1941年秋~1943年9月はドイツ領)。
ドイツによる調査により事件が1940年春(この時カティンはソ連領)に起きたことは周知の事実でしたが、ソ連は1941年であると、つまりドイツによる犯行であると主張し続けました。
そして戦後ソ連の衛星国となったポーランドでは、この事件に触れることは最大のタブーとされ、遺族は事件の真実を語ることさえ許されず、ひたすら沈黙を強いられたのです。
ソ連が自国の犯行と認めたのは、東欧民主化後の1990年。実に事件から50年が過ぎていました。

この映画で特に印象的なのは、やはりR15のラスト10分。
行き先も告げられず囚人用の車に詰め込まれ、彼らは森へと運ばれる。
それぞれに人生があり、夢があり、待つ人がいる命が、虫けらのように機械的に処理されてゆく。
朝靄に霞む深緑の中、朝陽のあたる遺体にブルドーザーが無感情に土を被せる。
そして漆黒の画面に流れるポーランド・レクイエムと、続く無音のエンドロール。
この無音のなんという重さ。
それは死者達への黙祷であり、そして沈黙を強いられ続けたポーランド国民の心の怒りでもあるのだと思います。

非常に上映館数の少ない映画ですが、ぜひぜひ映画館でご覧いただきたい作品です。

※遺体が埋められた場所
カティン:4410名 ピャチハトキ:3739名 メドノエ:6315名

※関連動画
アンジェイ・ワイダ 祖国ポーランドを撮り続けた男


最後に、パンフレットより。
ワイダ監督の父親も、この事件の犠牲者でした。

若い世代が、祖国の過去から、意識的に、また努めて距離を置こうとしているのを、わたしは知っている。現今の諸問題にかかずらうあまり、彼らは、過去の人名と年号という、望もうと望むまいと我々を一個の民族として形成するもの----政治的なきっかけで、事あるごとに表面化する、民族としての不安や恐れを伴いながらであるが----を忘れる。
さほど遠からぬ以前、あるテレビ番組で、高校の男子生徒が、9月17日と聞いて何を思うかと問われ、教会関係の何かの祭日だろうと答えていた。

もしかしたら、わたしたちの映画『カティンの森』が世に出ることで、今後カティンについて質問された若者が、正確に回答できるようになるかもしれないではないか。
「確かカティンとは、スモレンスクの程近くにある場所の名前です」というだけでなく......。

監督アンジェイ・ワイダ)