風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

ボリショイ・バレエ団 『ジゼル』 @東京文化会館(6月4日)

2017-06-06 00:08:05 | バレエ




東京文化会館に着いたら楽屋口に外務省ナンバーの車が並んでてロープが張られてたり、ロビーにロシアのTV局がいたり、舞台にマイクがあったりと不思議に思っていたら、安倍首相とロシアのゴロジェツ副首相が開演前に挨拶をして、そのまま鑑賞。他に外務大臣やら経済産業大臣やら自民党副総裁やら、政府首脳の面々が揃ってバレエ鑑賞という珍しい光景でした。ロシア政府主催の「ロシアの季節」という文化交流イベントの開会式のためだそうで、その名誉ある(と安倍さんが言っていた)一ヶ国目に選ばれたのが日本なのだそうです。その皮切りが、この夜のボリショイバレエ団の日本公演。皆さん忙しいでしょうに(興味なんて皆無であろう)バレエ公演をロシアの副首相と並んで2時間半鑑賞しなければならないとは、政治家も大変ですねぇ。安倍さんのスピーチにはプーチン大統領の名前が繰り返し出てきて、この夜のキャストもプーチンさんご指名だったそうです。先日のシフのときも考えてしまったことだけど、芸術と政治って本当に密に関係し合っているんですよね、日本にいると意識しにくいけれど。それにしても安倍さんの口から「ザハロワさん」「ロヂキンさん」という言葉を聞く日がこようとは。随分長いスピーチだなぁと思っていたら、公演のためのスピーチじゃなく開会のためのスピーチだったんですね。そもそも客は知らされていないものなぁそんなこと。。

さて、公演。
今回も帯同のオケ(指揮は前回と同じソローキンさん)は、繊細ではないけれど厚い音で盛り上げてくれて、結構満足です。揃っていない音もロシアバレエらしくて楽しい(東京シティフィルも下手でもいいからこういう盛り上げ方をしてくれればいいのに、といつも思ふ…)。ロシアバレエらしいといえば、今夜はジゼルの音楽が全然違うロシアの音楽に聞こえて面白かったのです。特に2幕は「あれ?違う音楽?」と思った。ロシア民謡のような、演歌のような、コッテリ風味。ロシアの楽団だとこうなるのだろうか。それが大変新鮮だったので帰宅後に「そもそもジゼルってどこの国の作品なんだっけか?」と調べたら、フランスなんですね。作曲家もフランス人。そして今夜の公演はロシア人がロシアの食材でロシア風に調理したフランス料理といった感じで、それはそれでとても興味深かったのでした。

ザハロワロヂキン前回の白鳥のときに二人の間に恋愛的な交感があまり感じられなかったのは演技だったのかどうなのか?と思っていたのだけれど、今回もそうだったので、やはりこの二人の間に恋愛的な空気は難しいようですね。でもそれがないと私は『ジゼル』に感動できないのよ・・・。演技の薄さは、特にロヂキン君がなぁ。ザハ様のことを好きそうな表情はちゃんと見せているのだけれど、なんというか、色々とギリギリ感が少なく(二幕も「もうダメっす、限界っす…!」感が薄いので、まだ1日くらい踊れちゃいそうであった)。グリゴロさん白鳥はリアルな相思相愛の恋愛というよりロットバルトの掌の上で理想のオデットに憧れる王子設定なので(たぶん)、あれはこの二人に比較的合っていたのだけれど、生々しい恋愛感情が必要なジゼルのような作品だと難しいですねぇ・・・。

では満足できない公演だったかというと、決してそうではなく。なぜなら、
ザハロワの美しさが平伏レベルだったから。
ジゼルがではなくザハロワがなのが残念ではありますが、気高くて、気品があって、外見だけじゃなく相変わらず内側から発光するように輝いていて。彼女の周りだけ空気の色が違う。
さすがにこの2年半の間に少々老けはしたけど、やっぱりザハロワって美の化身だな~と、「美」を人間の形にしたらこうなるんだろうな~と思いながら見ていました。もはや姫というより女王様。なので前半は村娘感があまりなかったけど(踊りは素晴しかった)、二幕では照明効果もあって女王様感にほどよくヴェールがかかって、亡霊っぽすぎず人間っぽすぎずな、とても素敵なウィリでした。演技過多でない静かな表情も、体重を感じさせない体と踊りも、二幕のウィリによく合ってた。ふわ~の跳躍もふわふわ~(ロヂキン君サポート上手くなってた!)。夜明けの鐘が鳴ったときのほっとする表情も、クサくない静かな演技が却って感動的に見えました。とはいえ前回来日のバヤのように本気なザハ様の気迫はこんなものではないはずなので、今回は日露首脳陣が客席に勢揃いしていた政治的な場でもあったので安全運転気味なところもあったのかな、とも。
カテコのザハ様の超絶な美しさは、言うまでもありません。綺麗~とかキャ~とかいうレベルじゃなくて、大袈裟かもしれないけど人間として尊敬の念を抱いてしまうような、これだけにお金払ってもいいと感じてしまうような、そんな美しさ。ロパ様と同じように、ザハロワもきっと仕事に対してストイックな人なのだろうなぁ。ロヂキン君、ザハ様の頬にチュッてキスしてた

ウィリ達の場面は、ロシア人のダンサー達の顔立ちが物語の世界の中のようで、見ていて楽しかった。そもそもジゼルという作品が私はとても好きなのよね。ヨーロッパの古い御伽噺を読んでいるみたいな気持ちになれて。
ミルタはユリア・ステパノワ。登場しても見逃してしまうような可愛らしい少女のようなミルタで(冷たい表情がいい感じ♪)、ウィリ達も同様に「いかにもな不気味さ」の少ないウィリで、でもそれが却って不気味のようにも思え、こういうのもアリだな~と思いました。いかにもなウィリも楽しいけど、案外こういうのもリアルなのでは、と。

ぺザントの男女(アルトゥール・ムクルトチャンマルガリータ・シュライネル)は、、、ボリショイであの値段をとってあれを延々観させられたのは、ちょっと納得いかなかったです・・・(シュライネルは後半持ち直してはいたけれど)。私の隣の人は全く拍手していなかったけど、私は小さめにしましたよ。来日公演は「日本に来てくれてありがとう」な気持ちはありますもの。

ハンスのヴィタリー・ビクティミロフ。かっこよかった。好み笑。バチルド(ヴェラ・ボリセンコワ)も美人!

アルブレヒトの持ってくる花束は白と黄の混ざった丸っこい花で、悲劇感が薄く見えました。やっぱり私は真っ白な百合がいいな~。ウィリの登場前に森の草がLEDぽく白くピカピカ光るのも安っぽくてねぇ。・・・ってつまりはそれも全部ひっくるめて「ロシアっぽい」と楽しめばよいのかしら。そんな気がしてきた笑。
そういえばボリショイのジゼルは最後に白い花をアルブレヒトに直接手渡すんですね(ロイヤルでは床に落としてた)。どんな仕草も美しいザハ様・・・。

というわけでザハ様があまりに美しくてそれだけで感動してしまうレベルではあったのだけれど、やっぱり『ジゼル』は幕が下りた後のぐわ~っとクる呆然感が私は欲しかったなぁとも思ってしまうのでありました。ザハロワもジゼルより二キヤのような気の強いところのある役の方が彼女に合っているように感じた。これまで見たことのあるザハ様全幕の中では、ワタクシはバヤの彼女がダントツで好きでございます。
ちなみにこのジゼルも振付(改訂)はグリゴロさん。

そういえばイケメンベリャコフ君は今回は来日していないんですね。ロブーヒンもアレクサンドロワもニクーリナもチホミロワもルスランも。残念である。また観たかった。
次回はスミルノワ&チュージンの白鳥です。前回観られなかったキャストなので、とても楽しみ





ザハロワのプロポーションって本当にバレリーナの一つの理想形ですよね。。。そしてこんなに細い手脚で折れちゃいそうなのに、ちゃんと踊りきっちゃうのだものなぁ。
写真と動画はJapanArts twitterより。


本公演についてのロシアのTV局のニュース。
言葉は全くわからないけど^^;、舞台の映像や舞台裏のザハロワやロヂキン君が見られます。ザハロワってこうして普通に話している姿も魅力的ですよねー。低めの声も素敵。オブラスツォーワもキュート!

【追記】

jiji.comより。6日にザハロワとレーピンが首相官邸を表敬訪問したそうです。ザハロワ、美しい。。。


デニス・ロヂキン 「日本の完璧主義は大好き」